展覧会レポ:とらや 東京ミッドタウン店ギャラリー「第48回企画展"はじめて知る銭湯"」
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六本木駅近くの和菓子屋「とらや」(平仮名3文字が紛らわしいため、以下、虎屋)のギャラリーで開催されている「はじめて知る銭湯」を鑑賞しました。その感想を書きます。
結論から言うと、展覧会に満足感はあまりなかったです。「とらや 東京ミッドタウン店ギャラリー」のあり方を再考する時期なのかもしれません。なお、虎屋について自分で調べた内容の方が、展覧会より学びがありました。
▶︎訪問のきっかけ
いつも通り、「artscape」の「展覧会スケジュール」で「開催中の展覧会」を探していました。そこで虎屋のギャラリーという見慣れない展覧会を見つけたため、行ってみることにしました。
▶︎「とらや 東京ミッドタウン店ギャラリー」とは
虎屋には、お菓子にまつわる資料を収集・管理し、和菓子文化の研究、情報発信も行う「虎屋文庫」という部署があります。そこでは、1600年代からの会社や、虎屋のお菓子に関する資料が保管されています。
虎屋ギャラリーは、その「情報発信」を担っています。ギャラリーは、赤坂本店、東京ミッドタウン、京都(京都御所や同志社大学のすぐ近く)の3つがあります。展覧会は、場所によって特色が違うようです。
ミッドタウン店は、和菓子を販売している虎屋の売り場面積の約半分がギャラリーになっています。
▶︎「第48回企画展"はじめて知る銭湯"」感想
銭湯について、初心者、外国人観光客でも分かる紹介した展覧会(和菓子と銭湯の共通点は不明)。ボリュームは少ないため、約10分で見終わります。
私の銭湯の思い出といえば「奈良健康ランド」「スパワールド世界の大温泉」。リラックスできるため、私は大浴場が好きです。ホテルに泊まる時は、可能な限り大浴場があるホテルを選ぶようにしています。
私は、それらを除いた、いわゆる純粋な銭湯に行った記憶は10回もないと思います。今後は、さらに純粋な銭湯を知る人は少なくなり、漫画やアニメだけの存在になっていきそうです。
銭湯の数は、ピークの1968年に1万7,999軒だったものの、2022年は1,865軒とピークから1万6,134軒減少(89.6%減)しています(東京商工リサーチより)。各家庭にお風呂が普及したこと、設備の老朽化、燃料高騰、後継者不足などの時代の変化により、銭湯の数が減るのは仕方がないですね。
展覧会の銭湯に関する記載は、どれも興味深かったです。しかし、それらは、虎屋や和菓子とはほぼ無関係と思いました。唯一、関係があるならば「日本の代表的文化」でしょうか(それだと何でもありな気がします…)。
企画展も約50と回を重ねると、ネタを探すのが大変です。虎屋や和菓子と関連性の薄い展覧会を企画するのではなく、原点に返って、虎屋の歴史、虎屋の商品のこだわりなどを分かりやすく、インパクトのある展示をしてはいかがでしょうか?
商品1つにフォーカスすれば、その商品の売上も上がるし、お客さんの理解も深まるし(=ロイヤリティも深まる)、大きく売り場面積を占めてまで行う費用対効果が出ると思いました。そのほか、虎屋の生産背景や働く従業員を丁寧に紹介する企画も面白いと思います(ESG的な要素も含めて)。
日本に3つある虎屋ギャラリーのなか、ミッドタウン店は、日本文化にフォーカスしているようです。しかし、虎屋に行く人は誰もその展示内容を求めていないのではないでしょうか。虎屋だからこそできることをすべきです。
実際にギャラリーに入るお客さんは稀でした。これは、お店の外から見た時にギャラリーがあること自体が全然伝わっていないことも要因だと思います(入り口でささやかに看板が立っているだけ)。
せっかくコストをかけて展覧会を行うのであれば、お客さんにとって(会社にとって)ためになるコンテンツにしないといけないです。ミッドタウンでの虎屋ギャラリー50回を機に、趣旨をガラッと変えるか、売り場にした方がお客さん、お店の双方にとって、メリットがあると思いました。
なお、次回の企画展は「和菓子とマンガ」(2024年1月26日~6月26日)。その企画展はタイトルからしても興味深く、寄りたいと少し思いました。
▶︎まとめ
いかがだったでしょうか?銭湯に関する知識は若干深まったものの、私は虎屋や和菓子についての知識を期待していたため、満足度は低かったです。課題点もあると思いました。展覧会の内容よりも、これを機会に虎屋について自ら調べたことで、虎屋について詳しくなれた点は良かったです。
▶︎虎屋について(おまけ)
虎屋は、後陽成天皇の時代(安土桃山〜江戸初期)から「菓子御用」をしたり、関ヶ原の戦いで西軍方の犬山城主(石川貞清)を匿ったり、明治維新で遷都に伴い東京出店を決意したり、関東大震災後は店頭販売を始めたりと、約500年間にわたり、和菓子屋を営んできました(非上場企業)。
経営理念は「おいしい和菓子を喜んで召し上がって頂く」。
虎屋の売上は、約193億円(2023年3月期)。全店舗数(直営店、販売店などを含め)は81です。1店舗あたり平均売上2.3億円。なお、ヨックモックは全150店舗、1店舗あたり平均売上1.3億円。虎屋の1店舗あたりの平均売上は、ヨックモックの約2倍です。
肌感覚ですが、虎屋はヨックモックに比べて、客数、客単価(一品単価、買上点数)ともに高いのではないでしょうか。贈答品としては、ヨックモックよりも、虎屋をもらった方が高級感があって喜ばれそうな気がしますね。
2019年の和菓子の生産金額は3,812億円と、10年前と比較して15%減少したそうです(ダイヤモンドより)。その理由は、高齢化が進んでいるものの、和菓子を食べる習慣自体が減っているのかな、と思います。
虎屋の前社長・黒川光博氏は、以下のように述べています。
なお、虎屋の経営者は世襲性のようです。現在は、30歳代の黒川光晴氏がの18代目社長を務めています。彼の経歴は、米国・マサチューセッツ州バブソン大学経営学部卒業、虎屋入社、東京工場製造課で菓子製造に従事。その後、2010年、仏・パリ店勤務。2011年、他社にて研修。UAE、サウジアラビア、シンガポールなどで貿易関連業務に従事。2013年に虎屋に戻り、2020年に社長に就任しています。
現社長の経歴を見るだけでも、彼には若い判断力と、国際的な価値観をもち合わせている(多分)ことが分かるため、虎屋の今後は安心できます。
時代に伴って嗜好は変わり続けます。虎屋も柔軟にお客様の変化に対応できれば、和菓子業界の中でも未来は明るいと思います。
▼新社長・黒川光晴氏インタビュー
▼前社長・黒川光博氏インタビュー