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九月十日

夢の内容

ボートに乗っている。ファンタジー世界に出てくるような、白っぽい木材を切り出して作った三日月型のボートだ。波の穏やかな海の真ん中に我々はいた。隣にはAちゃんがいる。中学時代に私を非情に無視したり、無視したと思ったら仲良くしたりと、散々私を振り回したあのAちゃんだ。「もうすぐ島に着くね」とはしゃいでいた。夢の中で会う彼女は相変わらずの美人で、ショートボブの色素が薄くて細っこい茶髪が風に吹かれてさらさらと靡いている。私はやるせない気持ちになった。何故なら彼女そろそろ死ぬということを私は知っていた。詳しいことは夢の中だから分からない、でもあの島に着く前に彼女が死ぬことを私は確実に知っている。過去のことなんてどうでも良くなっていた。もうすぐ死ぬことを受け入れて穏やかに過ごそうとしているAちゃんは綺麗だった。島に向かうオールを漕ぐのは私の役割だ。「少し寝てなよ」「うん」そう言って横になった彼女にブランケットをかけると、芸能人のゴシップとか、同級生のこととか、どうでもいい話を、消え入りそうな小さな声で私に話しかけ続けている。私はうん、うん、と相槌を打ちながらそれを聞いていた。ガタンガタンとオールを漕ぐリズムが心拍みたいに機械的な音を立てて、大海にむなしく響いていた。

自己解釈

中学時代に私を振り回したAちゃんは、高校に入ってから私と疎遠になった。たまに帰り道が同じになって話すことはあったけど、本音で話すことは一切なかった。そのうちに彼女は不登校気味になり、詳しい事情は分からないけど病気をして休学するという知らせだけが耳に届いた。その知らせを最後に彼女の情報は全く私の耳に入ってきていない。それでも夢にはたびたび彼女が出てくる。今どうしているのかは気になる。しかし、彼女にどんな事情があろうとも、自分の中で中学時代に受けた酷い仕打ちを許すということはまだ出来ていないようだ。「死の間際になったらAちゃんは私に謝るかな」、そんな冷酷なことを想像してしまう。夢の中では謝らなかった。そして一生謝らなくたって、和解できなくたって、Aちゃんはいつか死ぬ。死は全てを美化して、くだらない全てのことを洗い流してしまう。結局”私はいつか彼女を許す事ができるのだな”と思った。だから、多分これは悪夢ではない。

読んでいる本

「世界で一番美しい元素図鑑」セオドア・グレイ

叙事的に淡々と説明が述べられているだけの図鑑ではなく、著者の並々ならぬ元素愛が語られている、いわば”オタクの早口語り”のようなエモが詰まった図鑑です。Kindle版はお勧めしません。是非単行本を。

夢の中では悪夢だけど、起きてから夢の内容をよく考えると、悪夢じゃなかったってことがある。。渦中は辛くても客観視すると辛くなくなるアレ?

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