【機能性表示食品・トクホの問題点③】 ~利益相反(COI)問題~
この記事でわかること【一般消費者・食品事業者・機能性食品研究者向け】
1. 利益相反(COI)って何?
2. COIと研究不正
3. 機能性食品におけるCOIの現状
1. 前回のおさらい
前回、ちらっとCOIのお話をしました。COIはconflict of interastの略号で、
日本語では利益相反と訳されます(詳しくはこちら)。
利益相反と言われても、何のことかさっぱりわかりませんよね。
一般的には、
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信任を得て職務を行う地位にある人物(政治家・企業経営者・弁護士・医療関係者・研究者など)が立場上追求すべき目的と、個人としての利益が、相反している状態
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のことです。
さしづめ今で言うと、国会議員(目的:国政)と統一教会(利益:支援)の状態でしょうか。
トクホや機能性表示食品の科学的根拠を示す資料は、査読付き学術雑誌に掲載された介入試験結果の学術論文でしたね。
学術論文においては、研究者が利益相反の対象となり、
・研究者としての目的 ⇒ 介入試験の結果
・研究者の個人の利益 ⇒ 報酬や待遇
が相反(競合)してしまうことを指します。
これでもまだわかりにくいので、ものすごーく簡単に言うと、
「介入試験結果が企業研究者としての自分の報酬や待遇を左右してしまう」
状態ということです。
会社員時代には、筆者もこの板挟みにあい、メンタル的に大変でした。
2.利益相反とは?
この利益相反があると、しばしば本人やその地位に対する信頼を損なうことに繋がります。
実際に利益相反とそこから生じるバイアスが社会問題になった事例としては、2013年の「ディオバン事件」が挙げられます。
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当時約1000億円の売り上げがあったであるディオバン(バルサルタン・
ノバルティスファーマ社製)という降圧剤とライバル薬のアムロジピンの比較介入試験が、日本の五つの医科大学で行われ、その結果は有名学術誌に掲載されました。
ところが、その論文に対して、研究の質と信頼性について疑義がかけられてしまいました。(ちゃんとした学術論文誌では、他の専門家が”それっておかしいんじゃないの?”という意見を受付けて、調査を行うシステムがあります。小保方さんの時にも行われました)。
そこで調査が行われた結果、ノバルティス社と研究者の間に不透明な利害関係(利益相反)があり、人為的なデータ操作により企業側に有利な結論が導かれた(バイアスが生じた)のではないかという、研究不正疑惑へと発展しました。
最終的には、論文は撤回され、我が国の医学研究の信頼性が大きく損なわれる「ディオバン事件」となり、その後に大きな影響を与えています。
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テレビのニュースで流された、当該大学の有名な学長の謝罪会見は、
大変ショッキングでした。
3. ディオバン事件以降の利益相反対策
ディオバン事件の再発防止のため、文部科学省・厚生労働省は2014年に
「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」が
文部科学省からは「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」が公表され、利益相反を含む研究倫理教育が強化されました。
実際、大学や公立の研究機関に所属する研究者を対象として、
1単元3-40分程度を要する6-10単元のEラーニングプログラムによる倫理教育が義務化されています(試験に合格するまで何度でも受験しなければならないという超面倒くさいものです)。
しかしながら、民間企業の研究者にはこのような教育は義務化されていません。
一方、日本の医学・公衆衛生研究を所管する国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)によると、医学・公衆衛生研究における利益相反とは、以下を指します(公衆衛生には予防医学、すなわち機能性食品も含まれます)。
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研究者がそれに伴う社会的責務(研究結果の波及効果)と
それに矛盾した個人的利益(報酬など)があるため利害が衝突する状態
のことで、この状態で行われた研究結果は、
研究の客観性や中立性を損ない、企業寄りのバイアスがかかった結論
が導かれる可能性がある。
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上記では研究者としましたが、研究者の親族が対象となる場合もあり、
報酬は給与だけでなく、株・特許使用料・謝金・奨学寄附金(研究に自由に使ってね という寄付)なども含まれます。
それじゃ”利益相反があったら、学術論文に投稿しちゃいけないの?”
と思われる方も多いかもしれません。
そうではなく、企業と研究者の間に利害関係があるために、研究結果が読者にひずめられて伝わらないように、”利害関係を事前に申告してね”と求められています。それも程度問題(後述)ですが。
3.トクホ・機能性表示食品における利益相反
それではトクホや機能性表示食品の場合を見てみましょう。
前にも述べたように、利益相反の対象になるのは、科学的根拠を示す
学術論文の著者(研究者)です。
著者が、その研究を遂行するために依頼を受けた第三者(下請けではなく、対等な立場の)であれば、対価としての報酬を受け取る分には問題がないかと思われます。
一方、社員の場合、”企業が期待するような研究結果が得られた場合”と
”そうでない場合”には、大きく報酬や処遇が変わってくると予測され
「利益相反」状態にあります。
平成30年に公開された「臨床研究法における臨床研究の利益相反管理について」では、年間一社当たり250万円以上の報酬は重大な利益相反にあたるとされており、一般的な給与水準から考えて、社員の場合はこれに相当すると考えられます。
ちなみに上述の管理規定では、重大な利益相反の場合、当該研究から離れる必要があるとされています。
それが企業研究者であった場合、会社員としてはともかく、
研究者としてのキャリアは大丈夫なのでしょうか・・・・?。
実際の機能性表示食品の学術論文を見ると、ほとんどの場合、著者に社員が含まれています。一方、利益相反に関しては、記載されてたり、されてなかったりです。それでは、トクホや機能性表示食品だけは、特別に利益相反の記載が不必要なのでしょうか?
・機能性表示食品の届出等に関するガイドライン(令和3年3月 22 日;消食表第 120 号)によると、
「論文においては、臨床試験(ヒト試験)のスポンサー及び利益相反に関する情報を明確にし、透明化することが求められる」とあります。
・届出資料作成の手引書(公益財団法人 日本健康食品協会)には、
「利益相反とは経済的な利益関係により、研究で必要とされる公正かつ適正
な判断が損なわれる事態が第三者から懸念される状況です。
たとえば、臨床試験において、依頼者である事業者等が試験提供する場合や、投稿先の学術論文誌や専門誌の出版に書かれる者が投稿者の利害関係者である場合には利益相反にあたります。」
とあります。
決して、特別に免除されているわけではないのです。
また2016年に東京弁護士会から公表された「機能性表示食品制度に対する意見書」では、
------------------------------------------------------------------------------------機能性表示食品のガイドラインにおいては,論文の通数は問題とされていないうえ,実際に届出に添付された論文のうちには,査読つき論文ではあるが,社外の第三者による査読ではなく,自社内における査読しかなされていない論文もあり,信用性のない論文しか根拠資料がなくても受け付けられている。さらに,論文の作成者と届出事業者との間の利益相反についても,利益相反に関する情報を記載すれば足り,実際に利益相反がないことまでは要求されていない。
これでは,機能性に係る資料の客観性・信用性を担保するのに不十分である。論文の通数や査読の客観性を要件とする,利益相反がないことを要件とする等,機能性の根拠に係る資料については厳格にすべきであるが,そもそも事業者の自主性に委ねる届出制ではこうした厳格性を確保できないことから,せめて登録制とすべきであり,さらにいえば,本項以外にも多くの問題点を抱える本制度は廃止も含めた見直しがなされるべきである。
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全く、ごもっともです。
とはいえ、既に大きなビジネスとなった今では、
問題は山積であっても、すぐには廃止とはならないでしょうが。
私たち消費者は、公表される研究結果の判断者として、このような利益相反によるバイアスを正しく判断する必要に迫られています。また企業の研究開発者も、後ろ指さされないように気をつけて(立場はよくわかりますが)!
次回は更に問題満載の機能性表示食品のシステマティックレビューについてです。