#31 ニュージーランド蹴破り日記その3-3
翌日、海岸沿いに南下し、カイコウラに来た。カイコウラは、クジラやイルカやオットセイや、様々な海洋生物が集まる名所だ。
道中、ごつごつした岩場に大量のアカハシギンカモメとオットセイがいる海岸や、手作りのTシャツを売る店などで、たびたび車を降りた。そして「カイコウラ半島」に着いた。
半島から内陸の方を向くと、淡い色の海のすぐ向こうに、白い雪をかぶった大きな山々が見えた。山は静かな藍色で、山裾は穏やかに白く光っていた。海は干潮の時間だった。足元に大きな岩場が広がっていた。目の前の「海」と「山」が、いずれもあまりに力強いので、妙にちぐはぐな感じがして、その景色を特別なものに思わせた。
カイコウラは海洋生物が集まる名所で、多くの人が訪れる観光地だ。
「こんなところだって、誰も言っていなかったじゃないか!」
カイコウラは、その海と山が、ただその姿だけで素晴らしかった。
カイコウラ半島は、外周の少し内側から、ぐっと位置が高くなる。その崖の上にあるコースからは、大きな断崖や、海へ突き出す広い岩場や、藍色の海がよく見えた。
途中、階段で崖の下へ降りた。そこに決まった道はない。私は崖に沿った歩きやすそうな場所を外れて、海に近い、でこぼこの岩の上を、水たまりを避けながら歩いた。
周りには大量のアカハシギンカモメと、その他の鳥が少しずつと、ごろごろ転がるオットセイがいた。オットセイは開けた場所にいることもあれば、岩の影や隙間に転がっていることもあった。
「オットセイからは十メートル以上の距離を取るように」
という注意書きを何度も見ているので、岩陰から突然ころんと現れると、
「おお、こんにちは。こんなところにいらっしゃったんですね」
と少しうろたえてしまう。
オットセイは動いているものもいたが、大概は寝ていた。大きくて薄いヒレをぺたぺた動かし、重そうな身体を運ぶ姿はもちろん素敵だ。しかし私は寝ている姿のほうが好きだった。
寝ているオットセイは、みんな微妙に形が違う。肩くらいの位置や、背中の真ん中あたりの位置が、少しだけ盛り上がっている。遠くから見ると、どちらが頭なのかよく分からなかったりする。時折身体をくねらせて態勢を変えたり、鼻を高く突き出して左右に振ったりする。しかしまたすぐ寝てしまう。寝ている顔は、ふにゃふにゃしている。とても気持ちが良さそうだ。
寝ているオットセイを見ていたら、こちらも眠たくなってきた。ちょこちょこ人が通り過ぎるが、プールで泳いだ後のように、眠りへの誘惑に抗えない。オットセイも眠いはずだ。あの重そうな身体で海に入ってから、陸で日差しを浴びているのだ。
結局、ごつごつの岩場に仰向けになり、顔の上に帽子を乗せて、少しの間寝てしまった。アカハシギンカモメの盛大な鳴き声が聞こえた。目が覚めてからもう一度見ると、寝ているオットセイの位置が、先ほどとは少しだけ変わっていた。