漫画『あの子の子ども』 最終回に思うこと
以前紹介した『あの子の子ども』が、連載で最終回を迎えました。
今、ドラマが放映されていますが、かなり評判になってきているようです。
私が以前紹介したときは、4巻くらいまでだったと記憶しているのですが、
最終巻は9巻になり、8月に発売予定だそうです。
一足先に、掲載誌の連載で最終回を読んだのですが、
まあ、そう来たか。
それぞれの登場人物が、「最適解」を見つけて、悪い人にならなくて
良かった。ある意味、納得のできるラストだったと思います。
〔以下 ネタバレがあります。〕
結局、宝と福は、子どもを出産することを選びます。
未成年で、結婚年齢に達していないこともあり、すぐには結婚できません。
福は、妊娠していることが高校にばれてしまい、彼女は通信制高校へ転校することに。
宝自身も、学校をやめて働くことも考えますが、結果的には今まで通りの高校へ通い、卒業します。
福の家族が全面的に彼女の子育てを支え、二人は結婚するものの、
「新しい家族の形」を築いていくことになります。
一昔前なら、女性は16歳で結婚できたけれど、婚姻年齢が男女ともに18歳になったことで宝と福はすぐには結婚できない状況になってしまいました。
この辺りが昔と違うところで、
高校生が妊娠 →高校は退学→男が年上ならすぐに結婚 → 男は働いて、女の子は高校中退して母親になる パターンがセオリー。
または、出産しても、自分で育てない、里子に出す→ なかったことに。のパターン。
宝と福の場合、妊娠→出産 を選びますが、宝は祖父の家から通学し、その後進学することを選びます。福は、出産前から単位制高校に転校し、出産後は、養護教諭になるために進学する希望を持っています。
出産、結婚をしながらも、学生を続けるという選択は、今までになかったルートなのかもしれません。
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私が20代のころ、カナダに留学した時、ネイティブカナディアンの若者を対象とした学校を見学させてもらったことがあります。
その学校は、日本でいうところの「定時制高校」のようなところで、基礎的な学力をつけるための学習と、手に職をつけるための実習などが受けられる学校だったのですが、圧倒的に女子学生が多かった。
生徒の描いた絵画や、伝統的な衣装、美術品が並ぶ校内を見学したのですが、教頭先生の説明にとても驚いたことを思い出しました。
「この学校は、ネイティブカナディアンの若者たちを対象とした学校ですが、彼らは若くして母親になる割合がとても高いのです。給与水準、生活水準が高いとは言えない環境で、学校に十分に通えないまま大人になってしまった女性たちが、十分な食事をとり、自分自身のために学び、自立した生活を送れるように育てる場が、この学校なのです。」
給食では、なるべくネイティブカナディアンの伝統食を出すようにしているそうです。
とうもろこし粉でできたパンをいただいたのですが、一般的な小麦粉のパンとは違い、風味も香りも味わえる美味しいパンでした。
伝統的な食事をつくったり、食したりする機会が激減している現状で、次の世代へ伝統的な食文化を引き継ぐためにも、若い人たちに、学校でしっかりと食事をとってもらうことが大切だとも話していました。
若くして親になった人を、どのように支えていくのか。
社会全体として、若い母親と子どもをどう育てていくのかを真摯に考え、そのような場を設けているカナダという国の懐の大きさに感動した記憶が蘇ってきました。
かたや、日本の社会ではどうでしょうか。
「避妊には失敗したかもしれないけれど、人生に失敗したわけではない。」
そう言ってあげられるような社会環境なのでしょうか。
女性は、妊娠することで、誰しもが「悩み」ます。
福は高校生でしたから、その「悩み」が他の人よりも大きく、多かった。人生経験というものが無いまま、「出産」という試練に立ち向かわざるを得なかった辛さもあると思います。
でも、どんな年齢の女性でも、「妊娠・出産」に関わる悩みというのは、消えることはありません。
昔は「適齢期」なんて言葉がありましたが、今はいったいいつが「適齢期」なんだろう?と思ってしまうほどです。
若い人なら、「結婚」と「出産」の問題があり、30代であれば、「仕事との両立」が大きな壁になります。40代であれば「年齢の壁」が立ちはだかり、「出産」が安心してできる世代なんて、ないのではないかと考えたりもします。
10代の妊娠中絶数の次に多いのは、40代以上なのだそうです。
「予期せぬ妊娠」というのは、もしかしたら同じなのかもしれません。
「妊娠・出産」が、安心してできない、祝福されない社会で、どうやって子どもを増やせばよいのでしょうか。
さらに日本は、「やり直しがきかない」社会構造をしています。
一度、ドロップアウトしてしまうと、本流に戻れない。
出産、子育て中の女性であれば、「マザートラック」という言葉は、一度は聞いたことがあると思います。
宝もうすうす気づいていますが、「出産、子育ては、圧倒的に女性に負担がかかる」ということ。結婚し、男性と一緒に子育てができる、分担ができるなんて、幻想です。
これから福が、子育てをしながら、養護教諭目指して進学をすることになると思うのですが、その夢がどうか、叶えられるよう願わずにはいられません。
「あの子の子ども」が、今までの少女漫画の内容と一線を画すものであることは、間違いありません。新しい母親、父親像を彼らに投影させようとしたことも、価値のあることだと思います。
さらに、学校という社会の持つ醜さ、残酷さも包み隠さず描いて見せたところもこれまでとは違った作品であると評価できると思うのです。
4巻まで読んだ時の印象から、最終話までの間に、登場人物それぞれが成長し、
逞しくなっていました。
特に、宝と福の親たちが、それぞれに「子育て」を卒業し、彼らなりの形で子どもに「親としてできること」をやり遂げようとする姿に心を打たれました。
今回、漫画だけではなく、ドラマ化されたことで、社会の中で広く考えるチャンスを与えられた「高校生の妊娠」というトピックですが、正面切って話題にしにくいという社会の現状はそんなに変わりません。
大人であっても、「妊娠・出産」に関わる話題がネガティブにとらえられることが多いのですから。
宝と福は、新しい命とともに、一つの家族として歩み始めます。
子どもが生まれてから、突然親になるわけではない。
そこに至るまでの道のりを、逃げずに歩んできた二人なら、
きっと幸せな人生を送ってくれると願わずにはいられないラストでした。
ドラマだけではなく、ぜひ漫画の最終回まで
読んでみてください。
おすすめです。