ホームで起きた奇跡と笑いのヒューマンドラマ
これは友人、まりこさんに起きた本当の話。
半年前、好きな画家の絵を広める夢を持って、福井から画家のアトリエがある都会に出てきたまりこさんは、生活のために通う介護の仕事を終え、駅で電車を待っていました。
すると、ホームギリギリをフラフラ歩くおじさんがひとり。
まりこさんが、どうしたのかなと様子を見ていると、おじさんはついに倒れたのです。
まりこさんが慌ててかけよると同時に、
ひと組の男女もおじさんのもとへ駆け寄り、
3人は一緒におじさんを引きずり、
線路に落ちない所に移動させました。
彼らはA男さんB子さんにしておきましょう。
A男「大丈夫ですか!」
おじさん、ぶつぶつ言っている。
B子「酔っ払い?」
まりこ「具合が悪いんじゃないですか?」
A男「あの!酔っ払ってます?」
おじさん、お酒のにおいがぷんぷん漂う。
B子「わかるでしょ、こんだけ臭ってれば」
まりこ「かなりぃ、酔っぱらっちゃってますねえ」(福井弁で語尾がのびる)
A男「あのね、酔っぱらって、こんなとこ歩くと危ないですよ~」
おじさん、ぐでんぐでんで何か言ってる。
まりこ「この方、なんか言ってなさるけどぉ」
B子「あの!なに言ってるんですか?」
おじさんは泣きそうに言いました。
男「俺はさ、あの子らに、ちゃんと勉強さしてやりたいんだよ〜。遠い国はなれて来てさ、ず〜っと一生懸命やってきたんだよ」
まりこ・A男・B子「?(理解できない)」
男「マックとか、缶詰工場とかで、みん〜な、バイトしてるわけ!そんでも足らないんだよ、だから俺は、あいつらをさ、一生懸命、なんとかしてくれって、頼んでんの!」
B子「なんの話し?」
まりこ「お子さんのことでしょうかねえ」
A男「クニ、はなれて、とか言ってなかった」
男「だよぉ、だから俺は、一生懸命頼んだの!でも、なん〜にもしてくれないんだよ、日本って国はさ!日本ってなんなんだよ~!クう〜」
おじさん大泣きで、また倒れ込む。
A男「あ、だめだ、これ、救急車呼んだ方がいいなあ」
B子「だめだよ、病気じゃないじゃん、酔っ払いで呼んだら救急車に迷惑じゃない!」
まりこ「なんのことなんでしようねえ。・・・あ!もしかしたら、外国から勉強に来てる人のこと、言ってなさるんでないですかねえ」
まりこさんは福井から半年前に出てきたけど、
なまりがとれないと、私に会うたび、こぼしています。
B子「どういうこと?」
まりこ「わかりませんけどぉ、ほらぁ、外国から来る留学生さんとかいらっしゃるでしょう、そのこと言っておられるんかなあって思うんですけどぉ」
B子「そうなの?だったら、このおじさん、いい人じゃない」
A男「そうなの?留学生のことなの?」
男「俺はどんだけ、これにかけてるかさあ。
だのにさ、これだろ」
おじさんは皆のマスクをさしました。
男「帰れっていうんだよ〜!こっちにも、来んな!っつうんだよ!」
まりこ「ああ、そうでしたかあ。それはつらいですねえ、皆さんねえ」
B子「ねえ、なんとかなんないの?」
A男「なんとかって、ナニ?」
B子「知らないけどさ、役所に知り合いとかいないの?」
A男「いないよ、公務員、縁ないもん、お前は」
B子「いないよ、美容師ならいるけど」
A男「だよなあ」
B子「でも、よっぽどなんだよ、きっと」
まりこ「そうなんでしょうねえ」
まりこさんは、泣いたり怒ったりしているおじさんと、そのめんどうを見ているA男さんを見ながら、B子さんに聞きました。
まりこ「こちら、ご主人様ですか」
B子「いや、まだ」
まりこ「あら、ごめんなさい私、てっきり」
B子「いいんですいいんです、同じようなもんだから。彼ね、もうすぐ店出すんですよ」
まりこ「お店?食べ物やさんですか」
B子「いえ、美容室なんですけど。店を軌道に乗せてから。結婚は」
まりこ「そうですかぁ。でも、えらいですねえ、そういう風に、ちゃんと、ケジメつけているっていうかねえ」
B子「いやいや、お金かかるし。まずは成功して欲しいと思ってるし」
まりこ「でも、お二人なら、きっと、いいお店になると思いますよ」
B子「そうですか?」
まりこ「だってえ、人柄が素敵な方たちだものぉ」
B子「うわ、嬉しい!あのね、もっと言っていい?」
まりこ「どうぞどうぞ」
B子「あのね、彼の店ね、入った瞬間に、ふわ〜っとお客さんが癒されるような、そんなお店にしたいんですよ、美容院って、きれいになってもらう所でしょ」
まりこ「うわあ、いいですねえ、そういうお店」
B子「だから音楽もゆったりする鳥の声とか、波とか自然の音流して、素敵な絵をかけて」
まりこ「あ、あの、絵なら、素晴らしい花の絵、私、知ってますよ」
大好きな花の絵をたくさんの人に知ってもらうことが、まりこさんの夢でした。
B子「花の絵?ほんと?私、お花大好きなの」
まりこ「だったら、ぴったりです、もう、この方の絵は、本物の花を超えている感じがするくらいなんですよぉ」
B子「そんな花の絵があるんですか」
まりこ「繊細で気品があって、だけど、さりげなく、そこにいるっていうか、私も、あの絵に出会って自分の人生が変わったんです」
B子「うわ〜、よかった〜!」
B子はまりこさんに抱きつきました。
B子「わたし実はね、花の絵を飾りたいって思ってたんです!」
まりこ「そうなんですか!私も、嬉しいです!あの絵をいろんな方に見ていただきたいって思っていたんですよぉ」
B子「これも、ご縁ですよね〜」
まりこ「ホントに。ここで、こうやってお会いできたことが、不思議ですよね」
まりこさんとB子さんは男たちを見ました。
おじさんは酔っ払いながら語っている。
男「マックとか缶詰工場で、一生懸命やってさ。国の親を楽さしてやりたいって言ってな」
A男「もう100回聞いたから、ここ冷えるからさあ」
男「あれ?マックのこと、言った?」
A男「缶詰工場も聞いたよ」
男「で、役所がな」
A男「それも聞いてるから」
男「あれ?オタク、役所の人?」
A男「違います、通りがかりのものです!」
男二人は、ぐずぐずの会話をしている。
まりこ「彼氏さん、本当にいい方ですねえ」
B子「そうですかねえ(笑いながら、男たち二人を見ている)」
まりこ「私、お二人にお会いできて、すごく幸せです。都会でも、心の優しい方たちがいるなあって、思わせていただけたし、大好きな花の絵を知っていただくこともできたし」
B子「こちらここそ。これからお店出すのに、いいご縁をいただいた気がします」
男二人は、まだマックと缶詰工場。
男「マックだろ、缶詰工場だろ」
A男「1000回目」
男「それは、うそだろう」
A男「俺、行きますわ」
男「行かないでよ」
A男「行くよ、もう」
男「一緒に飲もう、そこで」
A男「呆れる、このオヤジ」
男「役所でも、そう言われた、いっつも、みんなに言われる、ガハハハ」
二人ともゲラゲラ笑いだしている。
まりこ「本当に。こんな出会いがあるから、人生って不思議ですね」
B子「本当。今度、絵をぜひ見に行きますね」
まりこさんは後に私に、この話をしてくれて、
私は忘れないうちに、これをほかの人にも伝えたくて、ここに書きました。
まりこさん以外は、どこのどなたかは知らない無名と言われる方々ですけれど、
とても心があたたまるお話で、そして、
不思議なご縁や巡り合わせが、
この世にはあるんだなあと、
感じさせていただいたお話でした。
ご登場いただいた無名の3名の方々は、
私にとってはすでに、有名人です。