あなたのサックス ・・・・『 片想いのラブレター』

こんなこと　何回わたしは
繰り返すんだろ

あなたの指と息が繰り出す音は
切なすぎて
苦しむと
わかっているのに

心が乾くと結局　
あなた全身をゆだねて過ごす

真っ暗な空間に
ぽつりとあなたの気配が息づき

ダークスーツの肩のライン
白い美しい指が小刻みに動いて
何百回も聞いている音色が
オートでリピートする

低い位置から　慎重にひとつずつ
登っては少し降りて
また登りだして今度は
テンポを上げて
勢いよくトップを目指す

そしてようやく　
こっちを向く

なに考えてるのって
聞きたくなるけど

イコライザーの赤は限界で
あとは
さざ波のようなビブラート

私の目は
ずっとあなたに注がれて
全身は耳になって
あなたを吸い取る

眉間にしわを寄せるクセは
最高に心地よいあなただと
わたしは知ってる

やがて開いた左目の瞼の下に
泣きボクロがあることも

涙のホクロと黒い瞳で
私を見つめるとき

あなたは気づいていないだろうけど
私の胸はもう
呼吸を止めているよ

やりきった後
別人のように素直で素朴な男になる
そして礼儀ただしく会釈する

そういうことするから

私はあなたが
余計に好きになるのでしょう

上品なあなたから
結局離れられずにいる

こんなに深い音色を持った
私の完璧な人なのに

あなたの半分は
いつも影で覆われている

生きているうちに
あと半分に
光をあててくれる時が
あるいは来るかもしれないって

なんとなく思う暮らしを
わたしは今も送っています

※ 空芯菜おひたちさんの企画『片想いのラブレター』に参加させていただきました。