ミッシェル・ルグラン 1〜切ない曲の達人
心に情緒がほしくなったせいかもしれない。
20世紀音楽に欠かせないフランスの作曲家、
ミシェル・ルグランについて書きたくなった。
スピルバーグ作品はジョン・ウィリアムス、
クリストファー・ノーランはハンス・ジマー。
監督と作曲家には相性のいいコンビがあるが
ミッシェルの場合は、切ない映画の達人だ。
パリ音楽大学でクラシックを学び
自らシャンソンを歌い、ジャズもこなし、
音楽のジャンルを網羅する彼の曲は
映画の中の男女を、
永遠に切ない存在に仕上げる。
彼の旋律は、
鼓膜から直に胸の奥に沁みる赤ワインみたいに、脳のコリを溶かして
聴く者の過去の情景まで呼び起こす。
彼は普段、ふと浮かんだ曲を書き留めて
後にそれが映画に活かされる事があるそうだ。
ここに挙げる曲も、そんな一つかもしれない。
男女のやるせない情感を見事に浄化する。
◼️『華麗なる賭け』
犯罪者と暴く側の駆け引きを描く映画。
画面構成がユニークで
ミッシェルの音楽は筋書きとは裏腹に美しい。
アウトローの固定イメージから脱却できず悩んでいたステーブ・マックイーンが、
銀行強盗の黒幕という、
知的成功者の役に初挑戦した作品。
相手役のフェイ・ダナウェイは、
犯罪の証拠を探す調査員。
この前年『俺たちに明日はない』で警官に蜂の巣にされる銀行強盗を演じた
これが2作目の新人。関係すると面倒そうな女は彼女の十八番になった。
・・・面倒な女、・・耳が痛い。
◼️『思い出の夏 42』
思春期の少年が海辺の家に住む年上の女性と、ひと夏の恋をする映画。
ある番組の中で、
ミシェル夫婦が、この曲を演奏した。
妻のカトリーヌ・ミッシェルは
フランスを代表するハープの名手。
二人は互いにアーティストとして
尊敬しているのが伝わってくる。
この映画は構図の一つ一つが、
情感のこもったスケッチブックみたいだ。
思春期の少年という生き物が愛しくなる。
この映画を高校生の私に教えたのは、
初めての男女交際相手、同級生の彼だが、
私が映画を見たのは彼と別れてからだった。
「なんかいいんだよな、この映画」
と言う彼の声を懐かしく思い出した。
実はミッシェルとカトリーヌは
この共演の4年後に長い夫婦関係を終え、
ミシェルはそれから5年後に天に旅立った。
◼️『リラのワルツ』
ミシェル作曲のシャンソン。
人生に傷つき失望する人に、
リラの花の強さを伝えている。
リラは寒さに強い北方の花だ。
私は二十歳でフランスの田舎にいた頃、
古城の庭に、
故郷で咲くライラックの花を見つけて驚いた。
名前を聞くと、フランスではリラ、と言う。
スイスのレマン湖畔の林道にもリラがあった。
リラは寒い地域に住む人に、
もうすぐ夏が来ると希望を持たせる花だ。
彼の歌を聴いていると、
シャンソンでしか出せない情感がある。
ミシェル・ルグランのことは、語りきれない。
次回では有名な『シェルブールの雨傘』に
少しだけ触れたいと思う。
今回もお付き合い頂き、
ありがとうございました。
いただいた、あなたのお気持ちは、さらなる活動へのエネルギーとして大切に活かしていくことをお約束いたします。もしもオススメいただけたら幸いです。