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こととい団子とクレージーペーパー
独りが好きなくせにツアーに行きまして
10年以上前 たぶん人間観察気分
芝居書いて調子に乗ってた頃です
団体で過ごす夜の懇談タイム
お付き合いで広間にいましたけど
ああ、やっぱりこのかんじね、という気分で
おばさま達に愛想笑いをむけていました
せめてもの救いは
あんがい静かな方々が多かったこと
主催者がゲームを始めると言い出しまして
ここに こととい団子があると思ってください
さあ、みなさん、これを売ろうじゃありませんか
一番上手な方はどなたでしょうね
え?こととい団子ってなに? そもそも
こういう強制がイヤなの と思う私と
どうせやれば私が一番
役者が頭の中にいますから
と余裕の私がおりました
さて 端から次々始まって
案外みなさま 恥ずかしいといいながら
前に出ると なんとかやってみる
目立ってた女性はやっぱり上手で
じぶんの仕事経験を盛り込んでくる
(ちょっとナメてかかってたかも・・・)
やがてご高齢の白髪の女性が前にそそと出た
小柄で腰も曲がっていたけれど
前の座布団にゆっくりちょこんと正座して
それでは始めさせて頂きます
実はうちの息子が
もう何年も帰らないんです。なんにも言ってこないし死んだのではないかしら どうしようもない子ですからね どっかで野たれ死にしてるかもしれない それもしかたないと思ってましたら
ヒョイと帰ってきて 母ちゃん うまいよって ぽんと これをくれたんです。
あんた どこ行ってたのって聞きたかったんですけどね 聞いても仕方ありませんから
で、これを黙っていただきましたんです
この美味しさはね 他にはありません
よかったら おひとつお買い上げになって
ゆっくりおうちで召し上がってくださいませ
長い話をすみませんでした
ありがとうございます
と 深々 頭を下げた
奥さん、それホントなの?って誰かに聞かれて
いいえ いまだに帰ってきませんよ
と笑ってる
次はずっと暗そうだった黒縁メガネの50代の女性
わたしにできるかな と真っ赤になってる
そしたら 高齢の女性が
なんでもいいから やってごらんなさいよ
せっかく来たんだから
そうですか
そうよ 楽しまなきゃ損ですよ
じゃあ とメガネをはずしました
ええ さあ、いらっしゃいませ
ちょっと そこの奥さん このお団子
なんて言うか知ってます?
…知らない 私も知らなかったの
こととい団子っていうんですって
ことといって どういう意味でしょうね
わかんない?
私もわかんない でもおいしきゃいいんです
どうぞ 召し上がってみて
名前がいいから きっといいことありますよ
そこのお父さんも どうぞ!
すいません こんなんでいいですか
上出来よ!上出来!の大歓声
彼女は真っ赤になって黒縁メガネを持って戻っていきました
私の頭の中で空中に浮かんだ真っ白のA4用紙に
シャーっと網の目状にヒビが入って
それからバラバラってゆっくり散っていきました
なんか泣けてきて鼻水垂れて泣きじゃくってたら
運命って意地悪で ついに私の番がきた
団体にずっと馴染まなかった女が泣いてるわけで
どうしました?って聞かれて
あの やりますって前に出ても泣きが続いて
すいません できません でも
皆さん 素晴らしくて
白い紙が粉々に砕け散りました
たぶん意味わかんないと思いますけど
ありがとうございました
と挨拶して戻りました
人を型にはめてたアホや
人は見えないところに深さを持っている
人はやっぱり魅力的だ
それを実感した言問団子の話でした。
軽くて いいです この人のカバーも
読んでいただきありがとうございます。
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