可愛いねと笑う君のほうが可愛い
恋人と過ごすいつもの休日。
降ったり止んだりする春の雨にぬれる町なか、一つだけ傘をさして並んで歩く。
スタバのソファ席に向かい合って座る。混み合う店内を見渡しても、私たちは他の男女ペアで来ている他の人たちと何ら変わらない「ふつうの恋人」に見える。
女性には二度の離婚経験があって、幼い一人息子は父親との面会中で、男性には結婚歴も結婚願望もなくて、それでもシングルマザーと付き合っている。
そんな「ふつうの恋人」にはあまりなさそうな事情を抱えているなんて、誰も思わないだろう。
そもそも他人のそんな事情に興味がある人はいないんだろうけど。いや、それが意外といるんだよな。放っておいてくれよな。
「かわいいね」と、私を見つめて彼は言う。
寝起きで髪がぼさぼさでも、生理中で肌が荒れていても、まつげパーマをしたあとでも、彼は私に「かわいい」と言ってくる。
好きな人の可愛さをかわいたらしめるものって、なんだろうか。
きっとそれは、かわいいねと言ってもらいたくてする丁寧なスキンケアや、好みそうなファッションや、春色のネイルだけではないみたいだ。
平成のアイドルがポップに女心を歌う曲を思い出す。
「セクシーなの?キュートなの?どっちが好きなの?」
30歳を過ぎても、好きな人に好きでいつづけてもらうためにがんばりたい心は変わらない。
どんなにタイプの顔や身体でも、好きならかわいい。ぜんぶかわいい。
わかっているんだけどね。わかっているんだけどさ。
そんなことを考えていたら、彼が本屋巡りから戻ってきた。
おもむろにドーナッツをほおばる。
あぁ、かわいい。
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