【5分小説】 侵略計画 #6
1話5分ほどで読めるエンタメ連続小説です。サクッと読める内容になっております。
それでは肩の力を抜いてどうぞお楽しみください。
3cmの生物が地球侵略を目論むお話です。果たして成功するのか!?
第一話から読みたい方はこちらから!↓↓
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6、掃除機という名のモンスター
諸君。聞いて驚け。なんと私は今、アンドロメダ星雲に突入している!色々あったが長かった旅もこれでやっと終盤に差し掛かったようだ。あとは優雅に元いた星へ帰ればいいだけ。どうして帰路につけたかというと・・・。
ああ、まずい!話をしているうちに、目の前に悪の化身、タコ大魔王が現れた!奴を倒さないことには無事に帰ることはできないぞ。さあ、スペースガンで撃ちまくれ!
まずい、このままではやられてしまう。しかし、こんな時のために私は秘密兵器を仕込んでおいたのだ。じゃじゃーん、スペース用ランチャー。私のデンジャラスで頼もしい相棒、その名も、SORAMAME-06。この一撃で倒せるぞ・・・!
タコ大魔王に最後の一撃があたろうとしたその瞬間に、ブツっとあたり一面が真っ暗になった。
「ちょっとソラマメ、タブレット占領しすぎ。」どうやらミネチャンが痺れを切らして一番いい所だったにも関わらず、私がプレイしていた「インベーダーを倒せ!タコ大魔王討伐編」の画面を無慈悲にも切ったようだ。チッ!せっかくまたかっこよくて強い自分に、擬似的なのはわかっているが、浸っていたというのに!!
「ソラマメ、ちょっと話があるんだけどさ。」ミネチャンは憤慨したようにぶっきらぼうに言った。
「ちょ!もうちょっとで倒せる所だったのになんて事をするんだ!」
達成まであと一歩というところで、他人の手によって邪魔されるほど悔しいことはない。私は足を鳴らし、ひどいぞ!とできるだけの恐ろしい顔を作りながらミネちゃんに対して凄んだ。
そんなことには全く動じずにミネチャンは続けた。
「あのさ、今度ね、」
「話を逸らすな。なぜ何の前触れもなくいきなり電源を切ったのだ。」
「いや、そんな事はどうでもいいの。」
「タコ大魔王を倒せていたら全クリだったんだぞ。」
「それよりも大事な話が。」
「またタコ大魔王戦をやり直さなきゃなんだぞ?面倒ったらありゃしない。」
「いいから聞けーーーー!」
いつも穏やかなミネチャンは今までに聞いた事もないような大きな声で叫んだ。すぐ後にまずい、と顔を顰め廊下の方に耳を傾けた。
少しするとドタドタと足音が聞こえママが、どうしたの?と廊下の先から叫んでいるのが聞こえてきた。
何でもないよ!とミネちゃんは大きな声で返し、ママがそのまま引き返してくれる事を期待したが、それも虚しくママはミネチャンの部屋のドアを何の躊躇もなく開けた。
「大きな声出してどうしたのよ?」ママは早く答えが聞きたいのか、ミネちゃんの返答を聞かずして部屋の中まで入ってきた。
「何でもないって言ってんじゃん。勝手に入ってこないで。」ミネチャンは私の姿がママの目に触れないようにタブレットの前に立ちはだかった。しかし、タブレットを隠そうとしたのがあきらかすぎたのか、完全に怪しまれてしまい、ママはヒョイっとミネチャンを片手で退けてのぞきこんた。マズイ、このままでは見つかるぞ。
「・・・タブレットがどうかしたの?」
何とかタブレットの裏側に隠れたが、ママの動きはそこでは止まらず、タブレットを持ち上げ始めた。いよいよまずい!全く持ってどこも隠せないのはわかっているのに、私は反射的に頭を抱えた。見つかる前にせめてタコ大魔王は倒しておきたかった・・・!
絶望に内臓をギュッと握られた感覚が走る。それと同時に息を止めた瞬間、バチン、と部屋の電気が切れた。
持ち上がったタブレットの下からママの顔が暗がりの中でもはっきりと見えた。ママはこちらを見ている。
・・・
ママはそのまま、タブレットを置いた。そして、もうまた停電?最近本当に多いわね、困っちゃうわね、とブツブツ言いながらミネちゃんの部屋から出て行った。
ブッハァ!た、助かった!!物凄くビビッたー!
暗がりの中でミネチャンと顔を見合わせた。極度の緊張から解放されたからか、私たちはクックックッと笑いが込み上げた。
危機一髪とはまさにこのことだ。
窓の外を見ると、灯ひとつなく街全体が真っ暗闇の中に飲まれていた。
「また停電だね。」ミネチャンはポツンと言った。
「だな。」私も静かに呟いた。暗闇の静けさをかき乱さないようにゆっくりと口を開いた。「さっきは申し訳なかった。大人気なく怒ってしまった。すみませんでした。」
ミネちゃんはフッと笑った。
「いいよ。私もブチっと消しちゃってごめん。」
お互いにグータッチをした。私たちの絆の綱が少し強化された様な気がした。
「ところでミネチャン、さっきは何を言おうとしていたんだ?」私が聞くとミネチャンは、あ、と思い出したように手をポンと叩いた。
「あのね・・・。2週間後に、修学旅行に行くんだ。」
「コンカツリョコウ?」
「違う、私小学生だよ。コンカツなんかしてどうすんのよ。シュウガクリョコウ。」
「シュウカツリョコウ?」
「対象年齢はさっきより近くなってるけどだいぶ違う。シュウガクリョコウ。」
「トンカツリョコウ?」
「いや離れてる。何それ三食全部トンカツ食べる旅行?おっも。絶対やだ!シュウガクリョコウだってば。」
「ポンコツリョコウ?」
「うっわ、みんな迷子になって駅に集合すらできなくて帰ってきそう。シュウガクリョコウだってば。」
「ええ?!・・・キンカイリョコウ?」
「・・・もう思いつかないんでしょ?」
「バレたか。流石はミネチャン先輩。」
ミネチャンは手を腰に当て、胸を張ってへへんと言った後に、恥ずかしくなったのか肩をすくめて笑った。
「そんな事はどうでもいいのよ。修学旅行の話。」
「どれくらいの期間、行くのだ?」
「4泊5日。私がいない間、ソラマメ、大丈夫かな?」
「何を心配している?大丈夫に決まっているだろう。食べ物だけ多めに用意してもらえれば5日間なんてあっという間だ。何も心配することはない。」
ミネチャンは少しホッとしたように頷いた。
「ちょっとリビングに行く?」ミネチャンはイタズラにニヤリと笑った。
私も同じくニヤリと頷いた。ミネちゃんの部屋にずっといるのも飽きるので、時折、彼女のポケットに入れてもらって家の中を色々と連れて回ってもらうのだ。
リビングに行くと停電が直り、パッと電気がついた。テレビも何事もなかったかのように流れ始めた。ニュースが流れており、不審な火事が相次いでいるので、火の始末や戸締りには気をつける様にと言っている。ミネチャンがポテトチップスを棚から取り、袋の中から一枚とると、パリパリと割ってそっと私が入っているポケットに入れてくれた。私は頭上に広がる小さな景色を眺めながら、ポテチを口に運んだ。居心地が良い反面、このままで良いものかと不安が押し寄せてきた。
ミネチャンの修学旅行の件はまったく深く考えてはいなかった。あんな結末を招こうとは思ってもいなかったのだから・・・。
二週間後、ミネチャンは予定通りに出発した。私の小さな家の中に5日は保つであろう量のポテトチップスやビスケットや野菜も置いて行ってくれたので、あとはソラマメマンでも視聴しながら暇を潰すだけだった。
ミネちゃんが家を後にして数時間は経った頃だろうか。私はいつものように寝転がりソラマメマンが元気の出る呪文を唱えるのを聞いた時だった。こちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。そして、ミネちゃんの部屋の前でピタッと止まった。まずい、誰か入ってくるのか?そう思い、ソラマメマンの動画を停止したと同時にドアが開く音がした。私のいるおもちゃの窓からそっと覗くと、そこには掃除機を手にしたママが立っていた。
床に掃除機をかけたら、きっと出ていくだろう。じっとしていればそのうち終わる。
ママは私の予想通り、床に掃除機をかけ始めた。一通りかけ終わった後に掃除機のスイッチを切った。そのまま出ていくのだろうと思ったのも束の間、ママがホコリ取り棒を使って棚の掃除も始めた。
窓のところにミネチャンが開けてくれた小さな穴はあれど、一応、この私の家は箱の中に入っている。棚に置いてあるとはいえ、きっと大丈夫だろう。
そう思って上を見上げると、大きなママの顔が思いきり目の前にあった。
・・・え?め、目の前に!!??それまずいやつ!!!!
ママは目を大きくし、口をパクパクしている。
「あ、あの時の・・・?」
困惑するママに対し、私は何を思ったのか、・・・やあ、と引き攣りながらも手をあげ笑顔で挨拶してみた。
見つめ合う私たち。
地獄の5秒間。
ぎいいいやあああああああああああ!!!!!
ママの悲鳴が私の鼓膜を破るかの如く響いた。
ああああああああ!!!
私も叫んだ。
そして私は全速力で走った。ママは持っていたホコリ取り棒で私の走っている所をめがけて振り下ろすも間一髪のところでそれをかわした。棚から飛び降りた。ボフッという柔らかな感触が全身に伝わり、ベッドに着地した。ママはベッドもバシバシと叩くも私はジグザグに逃げたからか何とか全てかわした。しかしベッドの端に追い詰められてしまった。
どちらに逃げてもホコリ取り棒でペシャンコにされる!
ホコリ取り棒がシュッと風をきってこちらに迫ってきた。必死に周りを見渡すと壁とベッドのマットレスの間に隙間があったので、後先考えずにそこに飛び込んだ。ガツンと硬い床を全身で受け止めた。
イッデェ・・・。泣きそう・・・。
なんとかベッドの下に逃げ込めたようだ。しかし、安心したのも束の間、ベッドの下を覗き込むママの顔がそこにはあった。再びホコリ取り棒が私に向かってきた。
私はずっこけながらも隅っこに必死に体を寄せた。ホコリ取り棒がすぐそこまできている!
ギュッと目を瞑った。ホコリ取り棒がピタッと止まったのが、風の動きで分かった。片目を開けるとママが悔しそうにホコリ取り棒で私を引っ掻き出そうと左右にブンブンと振っているがギリギリ届かない。ママは棒を仕方なく引っ込めたようだった。そしてママが立ち上がったのが見えた。
私はふーっと息を吐き、目を擦った。死ぬかと思った・・・。一旦は災難を逃れることができただろうか、でもこの先どうしようか、と必死に策を考えている時だった。
ガチャガチャっと硬い音があたりに響いた。そしてママが再びベッドの下を覗き込んだ。ママがニヤリと笑ったかと思うと、横から掃除機の吸い込み口がにゅっと潜り込んできた。
ホコリ取り棒よりも何十倍もやばい!!
掃除機のスイッチがカチッと押され、無機質な穴は物凄い勢いで空気を吸い込み始めた。
必死の抵抗も虚しく私の体はズルズルと床の上を滑り始めた。
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