【5分小説】 侵略計画 #7
1話5分ほどで読めるエンタメ連続小説です。サクッと読める内容になっております。
それでは肩の力を抜いてどうぞお楽しみください。
3cmの生物が地球侵略を目論むお話です。果たして成功するのか!?
第一話から読みたい方はこちらから!↓↓
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7、思わぬヒーロー参上!?
ママが手にしている掃除機のノズルがどんどん近づいてきていた。フローリングの床は氷の女王が作ったアイスリンクかというくらいにツルピカ冷え冷えで私には全く味方をしてくれなかった。爪を立て歯を食いしばっても、私の体は滑るばかりであった。
もはやここまでか?
とうとうゲームオーバーか・・・?!
掃除機のノズルが10cm以内に迫っている!
「急いで!これに掴まって!」
どこからともなく、聞いた事のない太い声が響いた。
「急いで!掴まれ!」
なんとか声のする方へ目をやると、そこにいたのは・・・、ソラマメマン!?
私の左隣には靴紐のようなものが投げられた。誰がなんの目的で助けようとしてくれているのかはわからないが、その紐を掴むか否かなどと悠長に悩んでいる場合ではなかった。私は必死にそのヒモを掴んだ。途端に私の体はみるみるうちにモンスター掃除機から引き離されていった。ベッドの足の裏まで引っ張られると、吸い込みの効力はだいぶ弱まり、なんとか最大の悪夢を見ずに済んだのだった。
誰が助けてくれたのかと上を見上げると・・・
なんと私と同じサイズの、同じような体型の、無精髭を生やした同種族の生命体がそこには立っていた。
「あ、あなたは・・・!?」
「シッ!」
その者は、静かに、と言うように人差し指を立てた。
そうだ、せっかく助かったのにママに見つかっては元も子もない。
耳を立てて音を頼りにママの様子を伺った。
まもなくして、掃除機の電源は切られ、吸えたかな・・・、とボソッとこぼすママの声と共に、ノズルも引っ込められた。そして音から察するにママは部屋を出たようであった。
私のものと近しいサイズの手が、にゅっと顔の前に伸びた。半ば信じられない気持ちでゆっくりとその手を掴んだ。立ち上がった私にその者は先日見た資料「ランボー」の主人公のようにディープアンドハスキーなボイスで言った。
「間一髪だったな。」
「あ、あなたは・・・!?」
「私の名は、#####。####星からやってきた。」
なんと私と同じ故郷の星からやってきたというのだ。私は目を見開いた。
「な、どうやって、え、だって、どうして。」
疑問が次から次へと溢れ出てくるのに、言いたいことが何一つ言えない。まるで袋の口があまりにも小さいが故に振っても中々出てこないポテトチップスの如くだ。
その者はシッ、とまた人差し指を立て、私の言葉を制した。
「ついてこい。」
その者、以下ヒゲマメ殿と呼ばせてもらう、はベッドの端まで行き注意深く周りを見渡した。敵がいないことを確認すると、今だ!とでも言うように私に手招きをし、走り出した。私も必死にその後を走ってついていく。この瞬間の私たちは、巨大生物にとっては、ただの走る豆粒だったかもしれない。しかし私には、先日見た資料「ミッションインポッシブル」のように、何ともギリギリのところで生き抜いている物凄くかっこいい二人が走っている絵になっているはずだと想像した。きっとそうだ。走るそら豆なんかじゃない。
まもなくミネチャンの勉強机の下にたどり着いた。するとそこには私がかつて乗っていた脱出ポッドに似たような飛行体が停めてあった。
「私の相棒を紹介しよう。フライ・マイ・スィート・ハニー号だ。」
ネーミングセンスはともかく、確かにその飛行体を見た瞬間、空腹時に味わうポテトチップスのように幸福感が私の中で広がった。それは希望そのものだった。
フライ・マイ・スィート・ハニー号の運転席に座ったヒゲマメ殿は、テイクオフだぜ、と言いながらハンドサインを私に送った。そして次の瞬間、機体はふわっと浮き、ビューンと一気に速度をつけて、机の下から出た。そして上昇を続けた。ヒゲマメ殿はレバーを今一度握りしめさらに速度を上げた。そして機体を窓の方に向けた。スロットルを徐々に上げていくヒゲマメ殿は私がまさに憧れる人物像そのものであった。
ま、まさか、このまま・・!?
と考えている暇もなく、機体は窓を突き破った。ママは割れた窓を見てさぞ怒ることだろうな。
ヒゲマメ殿はさらに上昇し家の屋根が見える所まで行くと、通気口の隙間に絶妙な飛行テクを用いて入っていった。そして暗がりの屋根裏に入るとそこには・・・。
なんと何十、いや、何百という同志がいたのだ!そしてみんなの後ろには母船がドデーンと構えてい他ではないか。
飛空体から降りるとみんなが、おかえり、と我々を歓迎してくれた。私に握手を求めてくるものもいれば、涙目にハグをしてくれたものもいた。どうやら皆私のことを知っていたようだが、私は誰一人として知った顔はいなかった。
「みんな、私のことを知っているのですか?」
ヒゲマメ殿に聞くとこれまたダンディに彼はこう返した。
「もちろんだ。あのメッセージと救難信号を送っていたのは君だろう?君は我々のいわばヒーローだ。」
メッセージと救難信号・・・?
あ!征服仲間募集と脱出ポッドの救難信号!あの後に救難信号が発動したのか!そうか、届いていたんだ。私の行動は無駄ではなかった。
「あれは君の出したサインで間違いないかね?」
そうです、そうです!と頷きながらいつのまに顔が綻んでいた。
「それで聞きたいのだが。」ヒゲマメ殿はぐっと私に顔を近づけ声を低くして言った。
「君の言う征服計画と一体どんなものかね?」
・・・あ。
そうですよね・・・。
私の気持ちは先ほどとは一転して暗雲が立ち込めた。
命の危険を冒してまでここにきてくれたのに、はいすみません途中で嫌になって放棄して、結局計画なんて立てていないです、やっぱり自分達の星にこのまま帰りましょう、なんて言ったらヒゲマメ殿はどんな顔をするだろうか。
しかし、最後のメッセージには、もう辞めた、という旨は記載したはずだ。そこは読んでもらえているのだろうか。
「あの、メッセージはどこまで読んでますか?」私は恐る恐る聞いた。
「もちろん、君がヒゲモジャ生物に捕まったのかどうか、というところまでだ。あんな気になる終わり方はないぜ、君。」
やっぱり。投げ出した旨のメッセージは受信していなかったようだ。確かにかなり時間を空けてからの送信ではあったが、あれを読む前に出発してしまったという事なのだろう。だいぶ伝えづらい。しかしこのまま有耶無耶にもできないので、私は意を決して真実を伝えることにした。
「あの、非常に言いにくいのですが・・・。」
「待て。その前に、私の計画を聞いてくれるかね?」
「へ?」
ヒゲマメ殿はニヤリと笑った。
「私は非常に良い物を自国から持ってきた。」
そう言って彼は母船から鉢植えに入った植物を持ってきた。
「なんと長年の研究の結果、最強の兵器を作り上げることに成功したのだ。」目を細めヒゲマメ殿はその植物を目線の高さまで持ってきた。
「この植物をあの巨大生物が食べれば、なんと24時間以内には魂が奪われたようになり、我々の意のままに操ることができるようになるのだ。」
ヒゲマメ殿の目線を受け私の背筋が下からゾワワっと凍ったようであった。
「我々のいう事をなんでも聞くようになってしまうのですか?」
「そうだ。」
私はどう受け取れば良いかわからずに俯いた。
「しかしこのままでは効かない。」
「え?」
「ある物質と混ぜ合わせなければいけないのだ。」
「というと?」
「NaCL(塩化ナトリウム)、C(炭素)、H(水素)、O(酸素)、さらにはTFA(トランス脂肪酸)を混ぜ合わせるとこれは完成する。」
私は息を呑んだ。
「しかしだな。これらの元素を含んだモノの入手場所が私にはわからないのだ。なので、長年この星に住んできた君がもしわかるのならば、ぜひ教えて欲しい。どうだね?わかるかね?」
私は目線を落としたまま考えた。そして、ゆっくりと顔を上げて口を開いた。
「今の私にはわかりません・・・。」
「そうか。ではなんとかしてそれらを入手する方法を考えなければだな。」
ヒゲマメ殿は残念そうに言った。
その日は遅くなってしまったので、食事とすることになった。皆とても暖かく私を迎え入れてくれた。
ここでの生活について聞かれ、私は揚々と語った。いかにママやテックンが怖くて、何度も私を殺そうとしたか、パパは比較的何もしてこない生き物だが油断は禁物だと。しかしミネチャンのことは話さなかった。寝転がってミネチャンに生かされていた事、毎日平穏に腕枕をしながらソラマメマンばかりを見てぐうたら過ごしていたことなどは一切言わなかった。
その代わりに潜んで生活していた事の大変さや、いかにサバイバルな生活を送っていたかと嘘八百を並べた。
そのあと、母船の中に空いているベッドがあるというのでそこに案内し私はベッドに寝転んだ。
疲れているはずなのになかなか眠れない。なぜならば私は先程、ここでの生活以外にもヒゲマメ殿に嘘をついていた。それが脳から離れなくて寝付けないでいた。
混ぜ合わせれば手に入る成分の入手方法を、私ははっきりとわかっていた。
NaCl→塩
C、H、O→デンプン
TFA→油に含まれる成分
そう、ポテトチップスだ。
ポテトチップスに先ほどの植物を粉状にしてまぶし、それを人間に食べさせれば彼らを抜け殻にして意のままに操ることができてしまう。
無理だと思われていたこの星の征服が、現実にできるかもしれない。
私は夢が叶うかもしれないからと湧き上がる興奮と、果たして遂行しても良いものかと言う不安感の狭間にいた。そこには睡眠は一切存在していないようであった。