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【5分小説】 侵略計画 #5

1話5分ほどで読めるエンタメ連続小説です。サクッと読める内容になっております。
それでは肩の力を抜いてどうぞお楽しみください。

3cmの生物が地球侵略を目論むお話です。果たして成功するのか!?

第一話から読みたい方はこちらから!↓↓

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目的の喪失

 もういい。このメッセージは誰にも届いていない様なので、ここら辺でメッセージ発信はストップする!
 前回、謎のカオモジャ生物に私が囚われたのか否か、ママに殺されたのか否か、そんな事はどうやら君達にはどうでもいい事のようだ。気にする者さえいない。なのでもうオサラバだ。誰も私のことなど気にもしていない事がよくわかったよ。
 ポテチを一生知らずに死んでいくそこのお前。ハッ!人生の半分を損してやがるぜ!後悔したって知らないからな!

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 私は虚しさやら悔しさやら無力さやらが混ぜ合わさった怒りだか哀しみだかを込めて、最後のメッセージを送信した。もうこの先メッセージを送る事はないだろう。
 「ソラマメ、おはよう!」
 小学6年生になったミネチャンが私の目の前にポテトチップスをそっと置きながら言った。
 「おはよう。今日は漢字テストか?大丈夫そうか?」
 「うん。ソラマメのおかげでバッチリ。」
 エクボをキュッとすぼませてミネちゃんは笑った。自信たっぷりに笑うミネチャンは可愛らしくも大人びて見えた。
 ミネ、遅刻するよ、とママの声が聞こえてきた。行ってくるね、とミネチャンはひそひそ声で言うと私の入っている箱の蓋をそっと閉めて部屋を出ていった。
 私はミネチャンから譲り受けたお古の携帯を立ち上げた。動画アプリを示す赤い三角のマークを、手をパーにして押した。ソラマメマンの動画を探し、適当なものを見つけ、再生ボタンを押した。ソラマメマンは今日もニコニコと笑ってみんなに元気を与えているというのに、私はというと片腕を枕にしてゴロンと床に寝転がりだらしなくポテトチップスを口に運んでいる。ソラマメマンがジョークを飛ばすたびに、ハハ、と短く笑うもその後には必ず何とも言えない虚無感が私の心を覆うのだ。
 ミネチャンに生かされているだけで、何ひとつ世の中の役に立つ様なこともせず、ただソラマメマンを見ては笑い、ポテチを貪っている。
 私は一体何をやっているのだ。もはや何のために生きているのだ。
 こんな堕落しきった生活を私はもうすでに6年間も続けている。

 6年前のあの日・・・

 ママは仮面のように張り付いた笑みを浮かべミネチャンに私を引き渡す様に言った。ミネチャンは迷いながらも、おずおずと後退った。カオモジャ生物がデカい顔を更にデカくして私の檻に近づいた。私を見つめ、ニヤニヤとしながら何やら頷き、持っていた段ボールの箱に入れた。段ボールを覗き込むミネチャンは顔の中心に力をいれ、ただ見ているしかなかった。そして私は、連れ去られていった。

 ・・・ママの視点から語ればの話だけれどね。

 そのカオモジャとママが喋っている隙を見てなんとミネチャンがおやつに食べていた枝豆の粒を檻の中に放り投げ、私を文字通りヒョイと救ってくれたのだ。私をポケットにそっと入れて、自分の部屋へ私を連れて行き、シルボンボンだかシルンバとかいうおもちゃの家に私を放した。
 巨大生物とは何とも荒くて怖くて無慈悲な生き物かと思っていたが、ミネチャンは違ったのだ。もし私が大統領になったら間違いなくミネチャンを副大統領に任命する。
 ママは私を「月間 ウマケン!」なる、謎の雑誌を作っている編集長をしている奴に渡そうとしていたようだ。ミネチャンによると、その夜にあのカオモジャから連絡があり、あの未確認生物は死んでしまったよ、死ぬとどうやら縮む様だよ、死体は枝豆そっくり、と言っていたそうだ。傑作である。
 一命を取り留めた私はそこからひっそりとミネチャンのおもちゃの家に住む事となるわけだ。
 ミネチャンはこの星の言葉を教えてくれた。計算、文学、漫画、音楽やスポーツなど私の知らない世界をたくさん教えてくれた。
 ミネチャンは自分専用のタブレットを買い与えられていたので、それの使い方も教えてもらった。何よりもタブレットでメッセージを送受信したり連絡を取ったり情報を発信したりできるのだと言うではないか。そこで私は、故郷の仲間達と連絡を取ってみたいのだ、通信を試みたいのだ、通信の仕方を教えてくれないかと頼むと、ミネちゃんは快諾してくれた。この星の征服を目論でいると言ってしまうと止められるかと思ったので内容こそは伏せて秘密裏に送信した。送信し続けた。
 彼女と交流を深めていくうちに、平和で退屈すぎる毎日だからか征服という目的を何度忘れそうになったことか。しかし、その度にダイハード、ターミネーター、インデペンデンス・デイだったりといった参考資料を何度も見て自分を奮い立たせた。
 しかし、何度送信をしても仲間と思しきものからの受信はひとつもなかった。最初のメッセージから6年が経っていた。仲間からの反応がなくても、きっとどこかで誰かには届いているかもしれない。そう信じて送り続けた。一つのメッセージ作成に3日ほどかかろうが何だろうが送った。ほら、スクリーンがデカいもんだから時間がかかるのだよ。
 先日のメッセージ送信を行った後に、ミネチャンに、このメッセージはどこの誰に届く様になっているのだろうかと、ふと質問をした。すると彼女は世界中に届くよ!と元気よく言った。おお!世界中に!嬉しくなった私はさらに聞いた、世界中ということは宇宙にも届くってこと?ミネチャンは笑いながら言った。それは無理だよ、だって宇宙には受信するところが無いもの!あったとしても遠すぎるよ!

 何だと・・・?

 今まで私は誰にこれを送っていたのだ?

 もしや、仲間ではなく人間相手に送っていたとでもいうのか??

 納得のいかない私はミネチャンのタブレットを使って動画サイト上で「宇宙」と検索した。宇宙交信のハウツーを説いている動画はないものか。誰か別惑星と交信に成功したものはいないのか、と躍起になって探した。しかし出てくるものはインチキ臭いものばかりであった。
 ある時、この星の支配者ニンゲンが月に行くための技術をまとめた動画を見て驚愕した。月までの距離約38万キロ。1億6千万馬力のロケットを持ってしても到着に3日も要するとのことだった。あんなにも巨大な生物にとっても、宇宙はあまりにも広大なのだ。こんなちっぽけな私に何ができると言うのか。
 その動画を見た後、何もかもが嫌になってしまった。自分からこの星を出ることもできないし、仲間に見つけてもらうことも容易でない。私の心は絶望一色となった。絶望に打ちひしがれた私はヤケになってあんな、なにも産まない怒りのメーセージを送ったと言うわけだ。そのメッセージ送信を持って、ただのポテチを貪るソラマメに成り下がったということはわかっている。そんな自分が情けなくないと言えば嘘になるが、だってしょうがないじゃん、私には、どうすることも、できないもん。
 いつだったかミネちゃんはスマホを買い替えてもらったとかで、古いものをわたしの家に置いてくれる様になった。そのスマホから、今日もソラマメマンは笑っている。みんなに愛されて、元気を与え、歌いながら踊っている。歌って踊るしか脳がないヤツめ、と最初は思っていたが、彼の方が私なんかよりよっぽど偉い。みんなに必要とされている。

 「ソラマメ、ただいま!」
 ミネチャンの笑顔はいつだって私の暗い気持ちを少し晴れやかにしてくれるがその時はそうもいかなかった。
 「おかえり。」私はそっけなく返す。
 「これ見つけたの。懐かしくない?」
 ミネチャンは鞄から何やら丸い塊を取り出した。
 「ソラマメが最初に来た時に乗ってきたやつ!」
 ミネちゃんの手には、私がここに着陸した時に乗っていた脱出ポッドがちょこんと乗っかっていた。きっと壊れているだろうから、それだけでは何の希望にもならないだろう事はわかっている。しかし、小さな光が胸の奥に灯された様な感覚が宿った。
 「どこにあったの?」
 「物置。ママが整理していて、隅の方に置いてあったからこっそり持ってきちゃった。」
 ミネちゃんは脱出ポッドを私の隣に置いた。そして、友達のところに遊びにいってくるね、と部屋を出た。
 私は恐る恐る扉を開けた。錆び付いていて開きづらくはなっていたが、何とか開ける事ができた。久しぶりに操縦席に座ってみると、宇宙研究者という格式高い仕事をしていた自分が蘇ってきた様な気がした。
 複雑な操縦パネルを見渡した。ふと目線を落とすと、赤い救難信号発信ボタンがポツンと寂しく存在していた。

 私はゆっくりと押してみた。

・・・

・・・・・

・・・・・・・

 やはり無反応だ。
 予想通りの結果となっただけの話なのに、やはりどこかで期待していたのだろう。無念さという冷水を頭からぶっかけられた様な気分になった。
 操縦席を降りて錆び付いた扉をゆっくりと閉め、私は再びスマホの前にごろんと転がりクリック一つで再びソラマメマンをスクリーン上に呼び戻した。
 しかし私は、その時は気がついていなかったのだ、救難信号ランプがまもなくして赤く光り出したことを。

拗ねる宇宙人とは私のことか?

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奈緒美フランセス
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