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ビッグな映画に出演できるよ、と甘い言葉に誘われ危うく大金をせしめられそうになった時のお話 〜大金払込み説得編〜

これは、なんちゃって役者をしていた時の記録。役者を辞めた後、確かに何も残らない。残らなかったけれど貴重な経験を沢山させていただきました!出会った方達、経験、かけてもらった言葉達、全てに感謝を込めて。ちょっとアングラな世界へようこそ。

・・・とか偉そうに書きながら実際はへっぽこエピソードのオンパレードです。楽しんでいただければ本望です!

※実体験を元に書いておりますが、エンタメ性を高めるために事実よりも盛った内容になっております。

Here we go!!
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前回記事
〜オーディションへのお誘い編〜①」
〜オーディション実践編〜②」
の続きです↓↓
こちら単独で読んでいただいてもわかる様になっておりますが、前回を読んでいただけるとより一層楽しんでいただけるかと思います!

今回が最終回です!

さて、きっと怪しくも何ともない至って健全な、ビッグな映画であろうオーディションを済ませ、無事に合格通知をもらった私は、契約を交わしに事務所へと向かった。

気分はもちろんルンルン、受付の方にも掃除用務員のおじ様にも笑顔で挨拶をしながら事務所のドアを叩いた。未来の大女優たるもの、誰にでも差別なく挨拶しなきゃよ!

先日、オーディションを紹介して下さった恰幅の良い男性が出迎えてくれた。仮にキクカワさんとしよう。私をスターダムへと駆け上がらせてくれる、いわゆるマイヒーローのキクカワさんは笑顔でこう言った。

「先日はお疲れ様でした。あのオーディションでは実は奈緒美さん一人しか受からず、しかもかなりの好評でした。紹介した我々としても鼻が高いです。」

おお、良いスタートを切っているではないか!

なかなか良い人材には巡り会えない事。奈緒美さんのオーディション映像を見てこの人は採用しなければと直感で思ったこと。熱意がこもっており感銘を受けたこと等々、お褒めのオンパレードであった。アナタは今日から、ベタ川褒め太郎と改名したほうがいいんじゃないかと思うくらい。

そんなにもよかったのか・・・。やっと私の才能に気づいてくれる人に出会えた!!

そして映画の詳細の説明が始まった。

「まず、今回の映画の監督を務める方は、最近⚪︎⚪︎や▲▲の映画でも活躍したこの方です。」
キクカワさんが取り出したファイルには、ある俳優さんのポートフォリオ(履歴書のようなもの)が入っていた。確かにわりかし有名な、見たことある方だった。いわゆる、超有名ではないが、有名作品にはちょくちょく出演しており顔を見れば、ああ、あの人ね、となるような方。その方は俳優であり映画監督ではなかったが、新しい境地に足を踏み入れようと監督業もスタートするのかもしれない。そんな方はたくさんいらっしゃるので、特に疑問にも思わなかった。

半年から1年後に撮影をスタートする予定とのことだった。

半年後に何か大きな予定は入っていないかを聞かれ、大丈夫だと返答すると、キクカワさんは笑顔を崩さずに言った。

「良かった。そうすれば、ほぼほぼ出演は決定です。」

・・・ほぼほぼ?

彼は更にこう続けた。
「やはり大きなプロジェクトですので、もう少しだけ奈緒美さんには演技力を磨いていただきたいと思います。もちろん十分に可能性を感じさせてくれるだけのものは持っているのですが、技術のレベルアップを図って頂ければ良いのかなと。」

まぁ、演技がピカイチに上手いワケではないのはわかっていた。上手かったらきっとすでにスターダムの階段の、上から3段めくらいにはいるだろう。こんな泥水に浸かっている下から3段目にしか到達していないビンボー役者などしていないだろうよ。

笑顔を一切崩さずにキクカワさんは別のファイルを取り出した。
「我が事務所と提携しているアクターズスクールがあります。そこに通って頂きたいと思います。」

そう言いながら新しくて綺麗そうなスタジオが何個も写っている写真のページを開いた。ソレらはいかにもプロ御用達感を醸し出していた。

「僕らもここはかなりお勧めでして、ここからプロになった人も少なくないんです。駅近ですから通うのも大変ではないと思います。」

お金を払わずしてそんなプロ輩出歴のあるスクールに通えるならばそれはラッキーではないか。その時の私はそう思った。

「どうですか?通えそうですか?」

スターダムに近づくためだ。何だってやってみせるさ!どこまでも食らいついてレッスン内容を一滴残らず吸収してやるさ!

私はアンジェリーナ・ジョリーばりにハスに構え、蛇の如く目を細めて言った。
「何でもやる覚悟はできてます。レッスン内容も全て吸収してモノにして見せます。もちろん通えます、いえ、通わせてください!」

キクカワさんはニヤリと笑った。
「さすが奈緒美さん。覚悟がしっかりおありで。」

さあ、あとはレッスンの場所と詳細を聞いて映画出演の契約書を書いたら、今日のところは終わりかな、そう思っていた。しかしキクカワさんの目の前においてあったファイルには続きがあったのだ。そして彼はページを捲りながら陽気な声で言った。
「ではレッスンの料金の説明をしますね。」

・・・ん??レッスンのリョーキン・・・?

なぜか無料だとばかり思い込んでいたのでわかりやすく、お、あ、え、あぁ・・・、とア行のみ使って動揺する私。しかしそんな私の事は気にも止めずにキクカワさんは続けた。

「レッスン料は月々5万円です。初月だけプラスで入会金、管理費、施設費を納めてもらってまして、それが15万円となります。」

えぇ・・・と呆気に取られていると彼は顔をこちらに近づけ、耳打ちするように言った。

「ここだけの話ですが、奈緒美さんは特別に初期費用を5万円引きにしてもらえるように話をつけておきますね!」

5万円引きは確かに美味しいな・・・、って待て待て。その額引いたとしても年間80万円!!!???当時住んでいた1Kの家賃6万円でさえヒーヒーの思いで払っているのにプラス5万円を乗せるなんてとても考えられなかった。

「・・・ちょっと一旦持ち帰らせてもらっても良いですか・・・?」
先程あんなに、覚悟は決まってますだの、何でもやりますだの言ったのに、何だかとても恥ずかしくなった。

そしてここからが長かった。

「アレェ?さっきの勢いはどこにいきました?本気の方は皆即決してますよ?全然これくらいの額も払ってますよ?バイトでも借金でも何でもして。
ちなみにね、芸能界って自己投資すればするだけ入れる可能性が上がるんですよ。アイドルのA⚪︎B48のメンバーだってそうですよ。あの子達はこれくらいの額を、いや、むしろこれくらいでは済まないくらい払ってレッスンに通って自分磨きして、やっとの思いでステージに立っているんですよ。

奈緒美さんの本気度合いはそれくらいのもんだったんですか?

それにね、言っても奈緒美さんの演技力、そんなに高くなかったですよ?あれくらいで映画に出れるって思ってもらっちゃ困りますよ。」

先程のベタ川褒め太郎お兄さんはそこには居なかった。そこからは、現実を突きつけられているのか、罵倒されているのか、とにかく私の本気度合いが足りない旨の言葉が続いた。

そして、キクカワさんの言い方が上手いからなのか、その言葉を聞いているうちにだんだんと、本当に自分のやる気がないから即決できずにいるのだろうかという気になってきた。

キクカワさんはその巨体を揺らしながらあと一押し、とでも言うように「で、どうします?」と圧強めに聞いた。

女優になる夢、このお金さえ払えば叶うだろうか?彼の言うようにそのレッスンを受けてあと一つ技術を高めれば映画に出られるだろうか?

奈緒美、沈黙・・・。






「やっぱり考えさせてもらって良いですか?」

キクカワさんは眉を顰めた。心なしか悔しそうに見えた。
「わかりました。では、良いお返事を期待して待っています。」

その事務所を後にしたのは、最初に到着した時刻から約3時間後の事であった。


家に帰ってから、その事務所のホームページをもう一度よく見てみた。所属していたのは二世俳優の方と無名の女優の計2人。しかし、これがまた不思議で、その二世俳優の名前で検索すると別の事務所に所属している旨が書かれており、話を聞きに行った事務所の事はどこにも書かれていなかった。
(業務提携という形で2カ所以上の事務所に所属する芸能人もいるが、その場合は必ずその旨が双方の事務所プロフィール欄に書いてあるはず。)

紹介されたアクティングスクールはWebサイトや広告の一つも出ていなかったので存在するのかどうかも怪しい。そもそもパンフレットや住所や連絡先をもらえるか聞いたのだが、それは出来ないと言われた時点で怪しさ満点なのである。

監督を務める予定の俳優さん周りも調べたが映画を撮るなんて情報は一切出てこなかった。(もちろんオーディションが一般公募されていないから出てこないだけ、ということも十分あり得るが。)

本当に映画を作ろうとしていたのか否かは今となってはわからない。

しかし、その撮影予定だった映画、監督をされる予定だった俳優さんを今になって調べてみたが、監督どころか脚本やプロデュースすらやっている記録はない。ちなみにこれは10年ほど前に体験したことである。10年間も実現していないのであれば、それってやっぱりね・・・。

とにかく、あの時目の前の幻想に眩んで払ってしまわなくて、本当によかった。それによる被害者が出ていないことを願うばかりだ。

あの日、一緒にオーディションを受けた子達は、きっとサクラだったんじゃないかと思う。だからダイコンヤクシャよりもダイコンだった驚きのクオリティだったんじゃないかな。もちろんただの憶測に過ぎないが。

あの俳優さんも勝手に名前を使われていたのかもしれない・・・。

ちなみに、なぜ私は踏みとどまれたかというと、生前の父の言葉のおかげだ。

「1円でも金を払えと言われたらゼッタイにその場で決めるな。必ず持ち帰れ。」


父の言葉は正しかったと思う。その場では冷静に精査できない。

この経験のおかげか、今でも契約ごとは最新の注意を払うようにしている。

お父さん様様!!

でも何より、憧れを利用してお金儲けをしようという魂胆が気に入らないのだ。
お金は取られなかったものの、あの時のトキメキを!!夢に近づいたかもしれないという喜びを!!返してくれー!自分は選ばれたんだという顔でいてしまったのが何とも恥ずかしい。ただの勘違い女じゃないか。

そんなわけで、世の中にはこういった闇も存在するのです。そんな闇に落ちないようにお互い気をつけましょうね!!
今日も素敵な1日になりますように!


※芸能界を目指す人をターゲットに、デビュー話をチラつかせてお金を不正に取ろうとする人達は残念ながら今でも存在します。もしあなたが芸能界を目指しているならば、どうかどうか、こういったお話は気をつけて。あなたが商品になってお金をもらう立場にならなきゃいけないのに、商品として価値のあるアナタがお金を払うなんてチャンチャラおかしな話よ!

※正当な芸能事務所でも、所属時に事務費用、オーディション費用などがかかるところもあります。お金を請求する所全てが悪徳とは言いません。しかし、しっかり疑問点などをクリアにしてから所属するかしないかを見極めることをお勧めします・・・。

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