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なんちゃって役者 「ねえ。」の猛特訓

これは、なんちゃって役者をしていた時の記録。役者を辞めた後、確かに何も残らない。残らなかったけれど貴重な経験を沢山させていただきました!出会った方達、経験、かけてもらった言葉達、全てに感謝を込めて。ちょっとアングラな世界へようこそ。

・・・とか偉そうに書きながら実際はへっぽこエピソードのオンパレードです。楽しんでいただければ本望です!

※実体験を元に書いておりますが、エンタメ性を高めるために事実よりも盛った内容になっております。

Here we go!!
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①『なんちゃって役者 爆誕
②『なんちゃって役者 悪魔の本読み
③『なんちゃって役者 いざ稽古突入』の続きです!

正直に言って、あまりに自分とかけ離れている、人物像を求められている事が苦痛で仕方がなかった。と言うよりはそれに応えられない自分が嫌で仕方がなかった。

不器用にも程があるレベルで何も出来ていない私に、とうとう共演者のシュフミ(50歳)が痺れを切らし、個人的に稽古をつけてくれる事になった。

稽古が始まる2時間前、シュフミさん(50歳)と、フクコさん(28歳)も付き合ってくださる事になり、いざ出陣!

じゃあ、頭からやってみて、とシュフミさんが少しふっくらとした頬をきゅっと上げて言った。優しい雰囲気は出していたが、この状況をどう思っているのかは正直その笑顔からは読み取れなかった。この子をなんとか助けてあげなきゃ、なのか、テメェの為に早く来てやってんだよ、さっさとできるようになれよアンポンタン!なのか。はたまた、貴方が下手だと作品にも、共演者の私にも悪影響が出るのよ、そこのところ本当にわかっていらっしゃるのかしら(デヴィ夫人風にお読みください。)なのか・・・。

これらのどれでもないかもしれない。いや、全てかもしれない。相手の考えている事が、微塵もわからないのはやはり恐怖の何者でもない。

心の安定を取れぬままセリフを言い始める私。

私「ねえ、貴方も被害者?」
フクコ「私ではないのだけれど、妹が騙されまして。」
私「あ!復讐ってことね。」

ストーーーーーー〜っプッ!!!

シュフミさんの声が稽古場に響く。気持ちがふわふわしていたので、そりゃそうだと思う自分。もしかしたら奇跡が起きて、アカデミー主演ものよ!と言ってもらえるのかもしれない、と思ったことは誰にも言わないでおこう。代わりに、私はこんな短いセリフすら言えないのか、と落胆が走る。

「もうね、『ねえ』と言うセリフからして全く相手に投げかけていないのよ。」
シュフミさんが、口元の笑顔は崩さず、しかし目は笑わずに私の方へと歩いてくる。そして思いっきりの張り手で私の肩を叩きながら「ねぇ!!!!」と手の力に負けないくらいの声をぶつけた。まさか張り手が飛んでくるとは想像ができず、「はへっ?」と間抜けな声で聞き返す私。
「ほら!思わず返事をしたでしょう?ねえ?って聞かれている感覚があったでしょう?」

確かにあった。否が応でも「ねえ。」と言われているのがわかった。いや、張り手で「ねえ。」と言われた経験はないが、とても立派な「ねえ。」であったのは確かだ。

本当に相手に呼びかければいいのよ、と言うシュフミさんのアドバイスをもとに、私も仕返しと言わんばかりの張り手で「ねえ!!!!」

・・・と返す勇気はなかったので、中途半端に右手を宙に踊らせながら、「ねえ。」と気持ち強めに言った。

シュフミ「まだまだ!心から湧き出る、ねえ!を聞かせてちょうだい。」
私「ね、ねぇ!」右手はまだ宙を舞っている。
シュフミ「手はいらない!全然響かないわ。もっと!」
私(右手を俊速で下ろしながら)「ねえ!!」
シュフミ「もう一回!」
私「ぬぇーえ!!」
シュフミさんの目がきらりと光った。
シュフミ「それよ!今は何を考えながら「ねえ。」って言ったの?」
私「・・・相手に聞いてほしい一心・・・ですかね。」
シュフミ「でしょう?それがお芝居よ。」

シュフミさんは、その調子、と言わんばかりに席に戻った。

しかし、今だから言うが、私はその時のことをシュフミさんに全力で謝りたい。何故ならば、相手に聞いてほしい一心だったなんてのは嘘だったからだ。どちらかというと「何度『ねえ。』と言わせるんだこの『×××××』」の方が正しい。『×××××』の中にはいる言葉は皆様の想像にお任せする。決して汚い言葉ではない。ええ?絶対汚い言葉だって??なんと失礼な!そんなことを私が言うとでも!?そんなことを言う人こそね・・・

はい、もういいでしょう。この辺にしておきます。

さて、念願の稽古。びっちりつけてもらった稽古。成果を演出家に見せる時が来た。例のシーンを見た後の彼の一言。

「『ねえ。』が強すぎる。もうちょっと抑えましょう。」

・・・力みすぎたようである。

しかし、この特訓が私の中に変化をもたらしたのだった。

「ねえ。」の一言に込めた想いは台本の流れを汲んだ、それではなかったが、あの時のシュフミさんの心を確かに動かしたようであった。可哀想に思って嘘をつくような人ではなかったので、本当に何か変化は感じたのだと思う。何が彼女の心を動かしたのだろうか。

私が辿り着いた答えは、中身が詰まっていたから
あの時、初めて願望を持ってセリフを発したのだ。「ねえ。」を何度も言わされることに苛立ち辞めさせたかった、と言う中身。

これが、「セリフを言う」と言うことなのかな、と思った。

人間とは実に複雑な生き物なのだ。全てを直接言葉にはしない。
「私のことを好きになってください!」
「はい!わかりました!」
「やったー!両思い!よっしゃ、これから早速デート!明日には結婚してください!」
「はい喜んで!マイハニー!」
とは、当たり前だがならないのだ。
むしろそんな奴は狂気の沙汰である。

お互いがお互いの事をどう思っているかの探り合いを会話の中で丁寧にしていく。どんな会話をするのか、どのようなタイミングで目配せをするのか、お互いのどんな変化に気づくのか等、とにかく細かいファクトを無数に分析していく中で相手の気持ちを割り出していく。

そして言葉に乗せて、願望をそれとなく含む。厄介なのがその言葉が必ずしも直結した意味を持たないこと。

「好きです。」と言えばいいものを、何かにつけて好きじゃないフリをしたり、気にしていないフリをすると言うものだ。しかし、願望という中身を持って相手と対話していれば、その内にじわりじわりと伝わっていくのだ。

私はというと、セリフを間違えずに言えればそれで満足してしまっていたのだ。驚いた風の顔をして、悲しい風に言って、微塵も思ってもいないのにおかしいね、ハッハッハッ・・・と笑っている風な事をする。そんなのはまさに風の如く人の心をすり抜け、何も残らない。

人と会話する中でこんなことはきっと当たり前にやっている事なのだが、セリフになった途端にできなくなるというのが、また不思議なのだ。しかしそこが芝居の難しさであり、楽しさでもある。私たち人間は何を考え、どういう思考回路のもと発言し、その時にどんな筋肉を使い、体の真ん中では何が起こっているのだろうかと、ジタバタしながらパズルを解き明かしていく。

ほんの少しの、しかし結構大切な気づきを得た私なのであった。

そして、この少しの気づきを握りつつ何回か稽古を重ねた後に、ついに演出家は言った。
「うん、ナオミ、良くなってきたんじゃないかな。」

キタキタキタ!!!!頂きましたよ!良くなったってよ!
テンションは低めだったけれど、そして勿論まだまだなのは重々承知だけれども、良くなったと言う言葉は確かに頂きました!

やっと希望の兆しが見えてきた。

さあ、いよいよ本番!
このまま調子良く本番を迎えられるのか!?

しかし、一つだけ言わせていただくと、
本番には必ずと言って良いほどにトラブルはつきものなのだ・・・。

To Be Continued!!

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奈緒美フランセス
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