須坂まで
善光寺門前に暮らしている。夏になって観光客がたくさん
来るようになり、ことにお盆休みの間は善光寺へ向かう
中央通りから、仲見世の参道までぎっしりと人で
埋め尽くされていた。このくそ暑い中、みんなよく来るなあと、
人混みを見ているだけで暑さが増して、うんざりとした。
お盆休みの中日、混み合っている自宅あたりを離れて、
となりの須坂市へ出かけた。缶チューハイを飲みながら長野電鉄の
鈍行で二十分。駅を出たら、相変わらずの人の少なさにほっとして
しまった。坂道を上がって久しぶりに、須坂クラシック美術館へ
足を向けた。季節に応じて、昔の着物の展示を開いているの
だった。美術館は、昔の大きな屋敷をそのまま使っていて、
佇まいに趣きがある。静かな屋敷の中にいると気持ちが落ちつく。
この日、浴衣を着て行ったら、受付のお姉さんが、着物を着ている
かたは拝観料が二割引ですとにっこり笑う。見送られて屋敷の中に
入っていくと、美術館の学芸員と思しきかたがたが、なにやら
打ち合わせをしていた。挨拶をして、広い屋敷の中に飾られた
夏着物の展示を眺めた。昼どきを見計らって美術館を出て、
鰻料理のた幸へむかう。ふだん食の細い生活をしていて、この夏も
トマトときゅうりと茄子ばかりで酒を酌んでいる。
たまには栄養を取らなければいけないのだった。
まずは店の近くの墨坂神社に立ち寄った。大きな神社で、
境内に入ると、感の鈍い我が身でも厳かな空気を感じる。
た幸に伺うのは今年の正月休み以来。
ご主人夫婦に迎えられカウンターに落ちつけば、冷たい
お茶が乾いた喉を潤してくれる。自家製の豆腐をつまみに
エビスを酌みながらご主人と向き合えば、この夏も
忙しいという。お盆休みの間は、持ち帰りのお客が
多かったといい、みなさんご先祖様を交えて、家族団欒で
過ごしているのだった。越後の〆張鶴の吟醸を酌みながら、
白焼きと蒲焼きを味わって、清楚な店内のひとときを
楽しんだのだった。
正月休みにお盆休み、自宅周辺が観光客でごった返すときは、
のんびりぶらぶら、また須坂に逃げて来ることにする。
人混みを避けて須坂や鰻食う。
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