蕎麦屋のんびり
休日の月曜日、
施設で暮らす母を定期検診に連れていった。
世話になっている女医先生は、いつも気さくに
話しかけてくれ、
おぼつかない母の話にも、根気よく耳を傾けてくれるから、
ありがたい。
診察を終えて、母を施設に送り届けたら、
今日の予定はなにもない。
自宅に帰ってきたら、東の町の友だちからラインが届く。
はじめての蕎麦屋で、
焼き味噌をつまみにお銚子を空けていますときたのだった。
おっ、いいねえ。こちらも負けじと、
蕎麦屋酒にいそしむことにする。
雪が降り止まぬ天気に、本日は近所の丸清に
おじゃました。
あいにくの天気にも関わらず、善光寺参道に
参拝客の姿が多い。仲見世通りの
丸清もお客で埋まっていた。
折りよく空いた一席に落ちついて、ビールセットを
注文した。
休日の昼は、たいていどこぞの蕎麦屋でくつろいでいる。
贔屓にしている店が四件有る。
丸清は子供のころから世話になっていた。
両親が共働きだったから、母の帰りが遅いときは、
夕飯に、丸清のかつ丼を出前してもらっていたのだった。
蕎麦も旨いがかつ丼も名物で、
両方食べられる、丸清弁当がおすすめです。
権堂アーケードわきに在る、かんだたは、開店当初から
お世話になっている。
酒の品ぞろえ好く、やさしい味のつまみも好い。
とり皮のうま煮は、来ればかならず頼んでしまう。
糊の効いた白衣のご主人の、きびきびした動きを眺めながら、
カウンターのはしっこで、ビール一杯にお銚子二本やって、
角の立った蕎麦で締めている。
県町、味噌屋のすや亀のはす向かい、さがやは、
信濃町生まれのご主人が、地元のそば粉を使った
蕎麦を提供している。
ここもまた、酒と肴の品ぞろえ好く、毎回なにをつまみに
酌もうか迷う。やっこに天ぷら、自家製の厚揚げに
イワナや鯉の刺身やら、行くたびに品書きの黒板を、
穴が開くほどにらんでいる。
油揚げの甘辛煮、いつも頼んでおりまする。
善光寺の仁王門入口、かどの大丸は、
創業三百年あまりの老舗で、店内の落ちついた風格が
歴史を感じさせる。
親しくしていた若旦那が亡くなって今年で四年。
足を運べば、おおきな体の穏やかな人柄を偲んでは、
西之門の吟醸を酌んでいる。現在は、
若旦那のお姉さんが、職人さんとともに店を営んでいる。
若旦那の告別式の翌朝、
店の入り口に白い暖簾がかかげられ、
もう営業を始めていた。気持ちを継いで店を守る。
ご家族の想いがうかがえて、涙が出たのだった。
蕎麦屋で酒のひとときは、居酒屋とまたちがった
趣きがある。
蕎麦屋酒のひとときをすごしていると、
人生はこれぐらいの贅沢でじゅうぶんと
思えてくるのだった。
燗酒を二本酌んで、かけ蕎麦で締めて、
帰ったらひと風呂浴びて、初場所観ながら晩酌だな。
つまみのカツを揚げてもらい、腰を上げたのだった。
燗酒や蕎麦屋の出前引ききらず。