酒屋いろいろ。
台風が過ぎて秋になった。朝晩涼しい風が吹くようになった
けれど、日中の暑さはまだきつい。
夏の終わり、久しぶりに不愉快な出来事があった。
友だちが飲み屋を開店した。煮込み料理の店で、
プレオープンに伺ったら、こじんまりとした店内の雰囲気が
好く、料理も旨かった。
開店にあたり、ある酒屋に日本酒を配達してもらったところ、
福島の「楽器正宗」を持って来た。
瓶を見せてもらったら、製造年月日が昨年の十一月だったの
だった。
親しくしている馴染みの飲み屋が、以前その酒屋と取り引きを
していた。
ところが、新酒の時期にも夏酒の時期にも、いつも時季はずれ
の売れ残った酒を持って来る。
おそらく飲み屋の店主の顔色をうかがって、気を遣うところと
いい加減に扱うところを分けていると見受けられ、
取り引きをやめたのだった。
このたびも、これから新規の付き合いになるかもしれない
飲み屋に九か月前の売れ残りの酒を持って来た。
相変わらずこすっからい商売をしてやがると、酒屋の社長の
顔が浮かんだ。
始末が悪いのは、売れ残るくせにやたらとたくさんの銘柄を
扱っている。有名な銘柄で客を引き付けて、売れ残れば
古い味を平気で客に押し付ける。
旬の酒をきっちり扱わなければ、造っているお蔵さんにも
申しわけがないではないか。お蔵さんと酒に愛情がないのが
よくよくわかるのだった。
日本酒を飲み始めてもうすぐ四十年になる。その間、
いくつかの酒屋に足を運んだけれど、ケチな酒屋に、お蔵さんに
傲慢な態度の酒屋もあった。その逆に、お蔵さんを敬って、
お客にも、そのときどきの旬の銘柄を紹介してくれる丁寧な
酒屋もある。
飲み始めた頃は、まだまわりに旨い地酒を扱う酒屋がなくて、
宮城の「一ノ蔵」という銘柄を、直接お蔵さんから買っていた。
それからしばらくしてから、地方の地酒を扱う酒屋が増えて
きたのだった。
今は上水内郡信濃町のみねむら酒店に主に世話になっている。
ご主人が県内外の銘酒を扱っていて、誠実な人柄だから
お蔵さんと飲み屋からの信頼も厚い。宮城のお蔵さん、
新澤醸造の「伯楽星」を扱っていて、これが旨い。
何年か前、サッカーのワールドカップの日本戦を観ながら、
「伯楽星」の純米吟醸を酌んでいたら、気がついたら
ほぼ一升空けてしまったときがあった。
それでいて翌朝の目覚めは爽やかで、これはやばい。
この酒で晩酌をしていたら金がいくらあっても足りない。
以来、馴染みの飲み屋の締めに二、三杯飲むことにして、
晩酌は同じ新澤さんの安い本醸造を酌んでいる。
一升千六百五十円。それで充分旨いのだった。
お蔵さんには、誠意ある酒屋と付き合っていただきたい
ものだった。
怒り沸く酒屋の無礼夏の果て。