飯山まで。
飯山市美術館で開催されている、佐藤武造展を観に行った。
飯山駅を出て歩いていくと、道沿いのなちゅら交流館に、
きれいな衣装を着たおばさんお姉さんが大勢集まっている。
ダンスの発表会なのだった。
暑い中えらいなあと眺めた。
佐藤武造は飯山の瑞穂地区出身の画家で、
高校生の時に、丸山挽歌に才能を見出されたという。
このたびは没後50年の記念展で、100点もの作品が
展示されていた。画家としての後半は、色味鮮やかな
作品が多く、むしろ初期の頃や、渡英していた頃の柔らかな
水彩画に惹かれた。
美術館の2階には、飯山の伝統工芸品の仏壇が
並んで展示されていた。どれも目を見張るほど絢爛豪華で、
軽々ベンツやクラウンが買える価格でぶったまげた。
美術館を出て、ひと気のない道を歩いて、
映画「阿弥陀堂だより」の舞台になった正受庵へ行ってみる。
坂道を上がっていくと、ちいさな境内から蝉の鳴き声が
聞こえてきた。静かな鳴き声だけどアブラゼミかな。
この夏初めて、蝉の声を聞いたのだった。仏さまに
手を合わせていたら、ふくらはぎがかゆくなる。
この夏初めて、蚊に刺された。
庵を離れて、住宅の間の細い道を歩いていく。先々にちいさな
田んぼがあり、げこげこと、ちいさく蛙の声が響いている。
この夏初めて、蛙の声も聞いたのだった。
道すがら、目に留まった称念寺に立ち寄った。
浄土真宗の古刹は、庭園の緑の楓がきれいで、紅葉もさぞかし
きれいと察しがついた。忘れずに秋の予定としたい。
寺と仏壇屋の並ぶ愛宕町の通りを行って、久しぶりの
高橋まゆみ美術館に寄ってみた。
のどかなおじいさんおばあさんの人形作品は、
いつ見ても気持ちが温かくなって、
作り手の高橋さんの人柄がうかがえた。
外へ出て歩いていくと、パティスリーヒラノのカフェの前に、
順番待ちの列ができていた。その先の、鰻の本多の店先にも
お客があふれている。飯山の、ぱたりとひと気の途絶えた
町なかで、この2軒だけ、いつも盛況なのだった。
ぶらぶらしているうちに、すっかり昼どきを
逃してしまった。駅まで戻り、舎内のカフェに落ちついた。
乾いたのどに一番搾りを流し込めば、
歩き疲れた体もようやく生き返るのだった。
改札口のわきで、地元のおじさんが野菜を売っている。
ズッキーニが10円、キュウリが15円。3本づつ買って、
しめて75円也。100円を渡してお釣りはいらないと言ったら、
キュウリをもう一本おまけしてくれた。
かえって申しわけないことだった。
坂道の先の古刹や蝉しぐれ。