春少しづつ。
彼岸入りの日、朝から雨がぱらついて寒い。
訪ねて来るかたもなく、午前で仕事を終いにして、
善光寺門前のギャラリー、夏至さんにおじゃました。
きれいなお姉さん二人が営むこの店は、器に洋服、
生活雑貨など、気をそそられる作品展を開いているのだった。
先月、着物の古着の展示会の折りにおじゃましたら、
大島紬の羽織がずいぶん手ごろな値段で出ていた。
しかも仕付け糸が付いたままで、古着といっても未使用の
羽織だった。迷わず買ってしまったのだった。
先日、himukasiという服屋さんの作品展を開くと
はがきが来た。直線的でシンプルなデザインが似合いますと
添えられており、気になっての訪問だった。
シャツにズボンにコートを拝見したら、飽きのこない
すっきりしたデザインで、確かに惹かれる。
いくつか見せてもらった中から、春にちょうど好い、
麻素材の黒いシャツとパンツを頂いた。
帰り道に蕎麦屋の昼酒にかどの大丸さんの暖簾をくぐる。
いつものように、店を仕切るお姉さんの笑顔に迎えられ、
野沢菜をつまみにキリンのラガーを酌む。
若旦那の陽一朗さんが亡くなって5年。もう来年は七回忌。
早いものですとお姉さんと言葉を交わす。
にしんの甘露煮で西之門の純米吟醸を酌んで、
温かい月見蕎麦で締めて店を出た。
翌日の19日、朝いちばんに近くの菩提寺の
寛慶寺へ出向く。祖父母と父が眠る墓前に花を添えて
手を合わせてお参りをした。
祖父は生まれる前に亡くなっているから顔を知らない。
祖母は小学校一年の冬に亡くなって、あのときは
ほんとに悲しくてわんわん泣いてしまった。
父はこの日が命日で、この彼岸で七回忌を迎えた。
兄夫婦に甥夫婦に姪夫婦に老いた母、我が家のみんなが無事で
いられますよう、お願いをした。
寛慶寺を出て通りを下り、同じ浄土宗の古刹の
西方寺の門をくぐる。本堂の裏手の墓地に行き、
陽一朗さんの眠る墓前で手を合わせた。
陽さん、今でも会いたいぞ。御家族と、
親しかったみんなの無事を見守っていておくれ。
おおらかだった人柄が懐かしいことだった。
日を置いた彼岸の終日、氏神さんの桜が開花した。
例年よりも半月も早いことだった。
春になったのだなあ。
年を重ねるたびに、桜の趣きがしみじみと
染み入ってくるのだった。
在りし日は今も身近に入彼岸。
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