
古い町の酒のイベントへ。
長野市の古刹、善光寺から一キロほど通りを下った処に、
権堂アーケードが在る。飲食店や洋品店があり、若い頃は
昼間は買い物客で、夕方になればサラリーマンのおじさん
たちが好い酔いに酔っ払っておおいに賑わっていた。
老舗の料亭やチェーン店の居酒屋に、蕎麦屋に寿司屋に天ぷら屋、
どこも繁盛していたものだった。アーケードを入ったすぐの左手に
かつて「びくら」というレストランが在って、子供の頃にときどき
母に連れて行ってもらった。今のようにファミレスなどなかった
頃だから、この店のハンバーグは最高の贅沢だった。
長野オリンピックの賑わいを境に客足が減って、今では昼も夜も
客の姿が少なくなってしまった。それでもこの頃は観光客の姿を
ちらほら見かける。夕方になると、さて、どこの飲み屋で旨い酒を
飲もうかと、店を物色している外人さんがうろうろしているのだった。
そのアーケードをまっすぐ抜けていくと、古い飲み屋街の
西鶴賀が在り、さらにその先には、かつての色街だった東鶴賀が
在る。こちらも昔は賑わっていたものの、空き店舗が連なるように
なり、人通りが少ない。それでも今でも常連さんが頻繁に足を運んで
いる老舗の飲み屋が在り、面白いことに最近は、この古い町に店を
開く若いかたもいるのだった。
酒屋を営む友だちがいる。信州の酒を大勢のかたに知って頂き
たいと、毎年六月に長野駅前の飲食店と協力して、「酒とらっぷ」
というイベントを開いている。駅前の複数の飲み屋にそれぞれ
長野の酒蔵さんに滞在してもらい、酒を試飲しながら各店を回ると
いう催しだった。そのイベントがこのたび、権堂アーケードと西鶴賀、
東鶴賀で行われたのだった。
八つの店と十三の酒蔵さんが参加しての当日、杯を片手に多くの
酔客が店を巡り歩く。参加した店の中には、馴染みの店もいくつか
あって、やあやあご苦労様ですと、ねぎらいながら回っていく。
西鶴賀に東鶴賀は通りが狭い。この日はいつも駅前で参加している
飲み屋のご主人がたがボランティアで交通整理に励んでいた。
この界隈はまだ昭和の風情が残っている。それが逆に新鮮に見えるのか、
ここ最近平成生まれの若者が客として来るという。実際この日も
地元の大学に通っている若者たちと遭遇した。
若いかたがたに古い町に足繁く通っていただきたいことだった。
行く秋や昭和の町で杯重ね。
