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春の陽気に。

平日の夕方、お世話になっているかたが、
両手いっぱいに梅の花を抱えて来てくれた。毎年自宅の
庭にたくさん咲くと言い、春の訪れのおすそ分けだった。
さっそく玄関先の甕に入れたら、枝が多すぎて入りきらない。
もう一個、使っていなかった甕を出して、突っ込んだ。
自宅前の路地に、幅四メートルほどの橋があって、
老朽化のために架け替え工事を行っている。
毎日、トラックやブルドーザーが入ってきては、
おじさんたちが作業をしている。
二月の下旬から始まって、三月の中ほどに終わる予定だった。
それがどうしたわけだか長引くことになり、現場の責任者の
かたが、すみません、四月の下旬までかかりそうでしてと
謝りにみえられたのだった。
工事をしている間は、ふだん路地を抜けていく小学生や
中学生や高校生の子供たちも、通勤のかたがたも通らない。
優しい彩りの紅梅を眺めてもらえないのは、ちょっと
寂しいことだった。この冬は暖冬だと聞いていた。
桜の開花も例年より早そうと聞いていたのに、春始めの
三月になってから、冷えこんだり雪が降ったり、冬に
逆戻りの日が続いた。
路地の先に氏神さんの伊勢社が在る。
石段を上がったわきに桜の木が二本ある。善光寺界隈で
いちばん最初に開くのに、今年はまだ、かたい蕾のまま
だった。桜の名所の上田城跡公園に須坂臥竜公園、
毎年この時期になると、見頃はいつかとあおられる。
今年はどちらも遅れそうと、観光協会のホームページの
開花具合を眺めている。
知り合いに、ときどきひとりで旅行をしているかたがいる。
旅行会社のツアーに申し込んでは、全国あちこちを
旅している。先日訪ねて来たときに、三月なのにこんなに
寒くてやんなっちゃうとこぼすのだった。
三月二十八日に、奈良の吉野の桜ツアーに行くのだという。
この寒さじゃ桜も咲き切らなくて、見頃を逃しそうと
ため息をつく。以前、青森の弘前の桜を訪ねたときは、もう
葉桜になっていたといい、遠方の桜巡りは、つくづく
時期の見極めがむずかしい。
スマホで調べたら、吉野の桜の開花日は三月三十日だった。
すっかり旅行を終えた日で、せめて地元の美味しいものでも
楽しんできてくださいと慰めてしまったことだった。

訪客の愚痴は吉野の桜です。




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