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須坂まで。

お盆休みの最後の日、隣の須坂市へ出かけた。
近所の善光寺下駅から20分。長野電鉄に揺られて行く。
須坂駅を出て、通りを歩いて行くと、夏休みというのに、
相変わらず人の姿がない。
須坂はその昔、養蚕業で栄えた町だった。
今でも町のあちこちに、当時を偲ばせる土蔵が残っている。
静かな町の風情が好きで、ときどき訪ねているのだった。
久しぶりにクラシック美術館に行ってみた。
石畳の通りの入口に在る美術館は、
明治時代の実業家が建てた、大きな屋敷をそのまま利用している。
昔のガラスの器や着物を展示しているのだった。
古いながらも手入れが行き届いた屋敷の中は
こぎれいな佇まいに気分も落ち着く。
一階二階の部屋にはそれぞれ、この時期のあでやかな単衣の
着物が飾られていて、涼を感じさせていた。
他にお客の姿がなく、広い座敷に座って静かに庭を眺めていれば、
それだけで酒4合はいけるなあと思ってしまった。
ぼちぼち昼どきをむかえ、美術館を出た。
車の行きかう道を行き、
須坂創成高校の前を過ぎていく。墨坂神社の広い境内に入り、
立派な拝殿に、須坂の町の平和をお参りしたら、
はす向かいに在る、鰻料理の「た幸」へ伺って、
ご主人夫婦の笑顔に迎えていただいた。
いつ来てもこの店は、凛とした清潔な雰囲気が好い。
お盆の間はお客が混んだという。この日は、
いつもなら定休の火曜日ということもあり、
みんな閉店していると思って来られないようだった。
おかげでゆっくりと貸し切りで、昼のひとときを
過ごせるのだった。
鰻の頭の煮つけでスーパードライを飲んで、
福島の廣戸川を酌みながら、う巻きを頂く。
コロナ禍が収まらず、鰻の不漁に、調味料や油や
光熱費の値上がりと、商売を続けていくには、
まこときびしい世の中になっている。
こうした、きちんとした店に来ると、無事長らくの
商いをと願ってしまう。廣戸川をおかわりして、
御好意の山口の獺祭を酌みながら、
あっさり目のたれ加減で焼いてもらった、かば焼きを頂いた。
小茶碗一杯分のご飯で締めて、贅沢な昼酒と相成った。
お会計を済ませて戸を開けたら、雨が降っていた。
傘をお借りして、挨拶を交わして、
見送っていただいたのだった。

静かなる須坂の町や鰻食う。

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