仕掛人・藤枝梅安を。
作家の池波正太郎が、生誕100年を迎える。
映画、仕掛人・藤枝梅安が公開された。
その昔、鬼平犯科帳を読んでから、このかたの
作品を愛読するようになったのだった。
鬼平犯科帳に仕掛人・藤枝梅安、剣客商売に、
上田市ゆかりの真田太平記など、全巻文庫本で揃え、
なんど読み返しても飽きることがない。
鬼の平蔵と呼ばれた火付け盗賊改め方長官、
長谷川平蔵と、ともに働く部下や密偵とのやりとりは、
ときに厳しく、ときには慈愛に満ち、下手な指南書を
読むよりも、よほど会社の上に立つかたがたに
読んでもらいたいほどだった。
仕掛人・藤枝梅安は、これまでテレビや映画で何度か
放送されて、緒形拳に小林桂樹に萬屋錦之介などが
梅安さんを演じてきた。
鍼医者の梅安さんと、相棒の楊枝職人の彦次郎が、
生かしておいては、世のためにならぬ奴を始末する。
もう30年も前、渡辺謙が梅安さんを、橋爪功が
彦さんを演じていた。
ふたりとも原作の風貌によく合っていて、毎週
楽しみに観ていたのだった。
最近BSフジで、岸谷五朗演じる梅安さんを
再放送しているけれど、岸谷五朗じゃあないんだよなあ。
違和感があって観ていない。
このたびの映画では、梅安さんを豊川悦司が、彦さんを
片岡愛之助が演じている。
物語は、おんなごろしと梅安晦日蕎麦という、ふたつの
短編をつなげたものだった。
原作に比べると、所々話の筋を変えてあり、
いらない場面があったり、省いてほしくなかった場面が
あったりしたものの、豊川悦治も愛之助も、独特の
雰囲気を出していた。
悪役を演じた天海祐希の、啖呵を切って
男をさげすむ演技も好かったし、梅安さんの愛人役を
演じた菅野美穂の、はかなげな色気も好かった。
池波さんの作品は、話の最中にたびたび食事の場面が
出てくる。このたびも梅安さんと彦さんが、
鍋を突っつき、言葉少なげに杯を交わす場面がある。
闇稼業を背負う男の暗さと切なさがにじみ出て
いたのだった。
四月に第二作が上映される。エンドロールの終わりに、
その予告が流れた。次回は彦さんが妻と子供の仇を打つ、
秋風二人旅だね。
今から楽しみなことだった。
黄八丈まとう鍼医者春入日。
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