伯楽星と精米工場とクラフトジンと。
宮城は川崎町のお蔵さん、新澤醸造店の見学をした
帰り道、三本木町に在る、新澤さんの精米工場に立ち寄った。
酒造りに使う米を、ここで削っているのだった。
以前伺ったときは精米機は二台だった覚えがある。
そのあと二台追加して、さらに二年前に、それらとは
米の削り方の異なる精米機を二台追加した。
積み上げられた酒米を前に計六台の薄緑色の精米機が
並ぶさまは、なんとも圧巻なのだった。
新澤さんの品ぞろえは、とても手が出ない高級酒から、
日々の晩酌にちょうどよい、手ごろな価格の酒まで揃っている。
以前から、安い酒でもかなり旨いのが、ありがたいことだった。
そして、安い酒に使う米を、後から入れた二台の精米機で
削るようになったところ、さらに味が好くなってたまげた。
それまでは、一升二千円の愛宕の松の特別本醸造を
晩酌酒にしていた。この頃は、それより安い一升千七百円の
本醸造で充分だなあと、感心をしながら酔っている。
生産量は二千五百石。その規模のお蔵さんで
高価な精米機をこれだけ抱えているのは、全国でも珍しい。
酒造りへの妥協のない姿勢が、見ているだけで伝わって
きたのだった。
新澤さんでは二年前に同じ敷地に別会社を設立して、
ジンも造っている。
宮城産のセリ、柚子、茶葉、葡萄を用いて蒸留している。
宮城の県木から欅と名付けられたクラフトジンは、
ドイツ製の小ぶりな蒸留機で造られていた。
その豊かな味わいは、
ジントニックにもっとも向いているといい、ロックでも
ソーダ割りでも旨い。
出始めたときは晩酌用に買っていた。
ところが、旨すぎてついつい杯を重ねすぎ、
翌朝になっても、まだ酔っていることがしばしばあった。
これは危険だぞ。沼にはまるぞ。
そう言い聞かせて以後は、馴染みの飲み屋で一、二杯
たしなむようにしている。
精米工場をあとにして、おなじ三本木町に在る、
新澤醸造店の本社に伺った。
十一年前の、大震災で壊れたお蔵はきれいになくなって、
新しい店舗が建てられていた。
社長のお母様が迎えてくれて、御挨拶をした。
震災のあと、社長がお蔵の移転を決めたとき、
頑張るということは、こういうことかと
思いました。皆さんに助けられて奮い立ったんですと
我が子のことを静かに語っていた姿が、
胸に染みたことだった。
冬浅し震災の蔵訪ね来て。