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オーダーメイドを。

この冬、愛用しているコートのボタンの縫い直しを、
散歩の通り道で見かけた洋裁屋にお願いをした。
善光寺から北へ二キロほど進んだ場所に在る、
アトリエ・ヒカオという店で、パソコンで検索したら
ホームページがあったので、ラインでやりとりをして、
その日の夕方にコートを持ち込んだ。
営んでいるのは穏やかな雰囲気の女性のかたで、
手ごろな値段で引き受けてくださった。
御自身の作った洋服を販売したり、洋裁教室を開いて
いたり、
市内の専門学校で洋裁を教えているという。
一週間後、コートを受け取りにうかがった際に、
洋服の制作をお願いしたのだった。
春の気配を感じ始めた頃、仮縫いをしました。
形の確認と、生地を選びに来てくださいとラインが来た。
出向いて、仮縫いの衣装を着てみたら、おお、好いです
好いです、イメージ通りです。
たくさんの生地の見本から、やや薄手の、それほど値段の
張らない生地を選んで本縫いを頼んだのだった。
それからひと月ほど経った、桜が満開を迎えた頃に、
仕上がりましたとラインが来た。仕事を終えた夕方、
いそいそと受け取りに行くと、仕上がりまで時間が
かかってしまいすみませんと頭を下げられた。
こちらこそ、忙しい合間を縫って仕上げていただいて
ありがとうございますと頭を下げた。上下黒色の
作品は、上着の丈がやや長め。パンツは少しゆったり目。
馴染みの飲み屋に行くときも、かしこまったお呼ばれの
宴に行くときも、釣り合うような雰囲気だった。
男やもめの、しょぼいおっさんの格を引き上げてくれ
そうで、嬉しくなった。オーダーメイドで洋服を作ったの
なんて、いったいいつ以来のことだっけ?社会人になった
ときに、冠婚葬祭用の礼服と、背広を近所の洋服屋の
旦那さんに作ってもらって以来だった。しかもその時は
母が賄ってくれたから、自身で作ったのは初めてのこと
だった。
それなりに値が張ると思っていたのに、思いがけず、
良心的な価格におさえてくれたのもありがたかった。
何年も衣類はインターネットの世話になっていた。
注文して待ちわびて、形を確認して生地を選んで、
仕上がりを待って、いよいよ手元に届く。
作っていただいたかたとのやりとりも楽しく、
好い時間と温かな気持ちを頂いたことと、感謝した
ことだった。

新服は上下黒色パナマ帽。






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