見出し画像

写真を撮っていただいて。

毎日酒を飲んでいる。馴染みの店の一軒に、豆腐とお酒・まほろば
が有る。かつての色街だった東鶴賀町に開店して、
この秋に三周年を迎える。人通りの少ない立地の良くない場所に
開店したのに、ときには満席で入れないときもあり、
この三年ですっかり繁盛するようになったのだった。
店を営むのは三十半ばの女将さんで、一人で料理を作っている。
どちらかというと物静かなかたで、店が忙しいときでも
慌てる様子もなく黙々と料理をこなしている。
その女将さんが、今年の正月に入籍した。ご主人になられたのは、
お客で来ていたプロのカメラマンのかただった。
ホテルの結婚式場でブライダルの写真を撮っているのだった。
そのご主人に先日、こちらが働いている姿をカメラに収めさせてくれと
お願いをされたのだった。
大丈夫ですか?こんな顔つきの悪い男を撮ったら、カメラが爆発
しませんか。そうはいっても目をかけてもらうのは嬉しいこと。
ありがとうございますとお受けした。
困るのは、客商売をしているのに、日によって客がひとりも
来ないときがある。せっかく撮影してくれるのに客がいないでは
話にならない。近所の親しくしているおばさんに、当日、サクラに
なってくれるようお願いをした。
実は過去に一度、近所の写真館のかたに仕事の姿を撮ってもらった
ことがある。二十四年前に仕事場兼自宅を改築した。
お祝いにと、お世話になっている近所の菩提寺の奥さんの
計らいで撮ってもらうことになり、後日一冊にまとめてくれたの
だった。久しぶりに本棚から引っ張り出して開いてみたら、
わ、若い・・。顔にはりがあって、髪もまだ黒いままだった。
長い月日を経て、家屋もあちこち不具合が出るようになり、
家主もすっかりくたびれ果てている。
撮影当日、ご主人に仕事の様子を撮っていただく。こちらの姿
だけでなく、店内や仕事場のまわりの景色も撮っている。
後日送られてきたデータを見たら、素敵な写真ばかりで
ありがたいことと頭が下がった。
その日の客は、サクラになってもらった近所のおばさんだけ。
ほんとに助かったことだった。

仕事する姿撮られて夏の朝。







いいなと思ったら応援しよう!