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信濃町まで。

仕事場に古い掛け時計が有る。
創業して間もないころのセイコーの製品で、
大正の終わりから昭和の初めの頃の時計という。
かつて、髪結いをしていた祖母が買ったのだった。
古い時計は、思い出したように急に故障する。
以前、善光寺にほど近い中沢時計店に腕のいい
おじさんがいて、2回直してもらったことがある。
そのおじさんが引退して、他の時計屋を探したところ、
上水内郡信濃町の、古間商店街の酒屋を営む友だちに、
おなじ商店街の小口時計店を紹介してもらった。
親子で営む時計屋で、これまで掛け時計と、父の形見の
古い腕時計を1回ずつ修理をしてもらった。
この頃になって、また様子がおかしくなってきた。
ねじを巻いてあるのに、振り子が途中で止まってしまう。
信濃町まで足を運んで見てもらったら、
いちどオーバーホールをしたほうが良いという。
お願いしますと時計を預けて、友だちの酒屋で焼酎と
日本酒を買って、旬のとうもろこしを買いに、直売所まで
足をのばした。用事を済ませて坂を下り、鳥居川近くの
共同墓地に車を止めた。
かつて結婚していたときがある。当時の連れ合いの実家が
信濃町に在り、墓地にはお義父さんが眠っているのだった。
結婚したのは29年前のことだった。
実家が在るのは、目の前に飯綱山と黒姫山が見える空の広い
場所で、
ちいさな家屋の横に大きな畑があって、お義父さんと
お義母さんが野菜を作っていた。
初めての夏におじゃましたときに、とれたてのトマトを
食べたことがある。それがまことに美味しかったのだった。
トマトってこんなに旨いのと、目からうろこの味だった。
トマトだけじゃなく、ナスもきゅうりも瑞々しく、
土産にたくさんもらっていた。
山からの風が爽やかで、畑の真ん中で飲むビールは
旨かったなあ。トマトはしょっちゅう食べているけれど、
あの日の畑のような濃い味は、なかなか巡り会えない。
かといって、食への欲が薄いから、旨い味をわざわざ
探すこともしない。
懐かしい思い出の味になっているのだった。
夏の信濃町に来ると、畑のトマトの
ひとときをいつも思い出している。
確かめたら、2年前のブログにも書いていた。
大事にしなきゃいけない日々を大事にできなかった。
思い出すたびに、そんな気持ちになっている。

あれ以来旨いトマトを食ってない。

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