久しぶりにデパートへ。
仕事場にちいさなふくろうの置き物が二つある。
母がどこぞで買ってきた品で、ふくろうは幸福を招くと
言われているから、縁起を担いで置いてあるのだった。
その母が介護施設で暮らすようになり、4年が過ぎた。
施設に入るときに、実家に置いてあった母の貴重品を
預かった。その折りに、
フクロウのブローチを頂いた。
幸せになれるように身につけていなさいと、
バカ息子の身を案じてくれて、年老いた親の気持ちが、
切ないことだった。
旨い酒さえ飲んでいられれば充分幸せなんでとは、
言えなかった。
ところが、ブローチなどそれまでつけたことがないから、
もらったまま、ずっと机の引き出しに入れたままだった。
コロナ禍でなかなか会えない中、ときどき医者に
連れて行く際に迎えに行くと、
あんた、どうしてブローチつけないのと聞かれるときがあり、
なんだかこちらも申しわけない気持ちになっていた。
預かったネックレスやペンダントは、外出するときに
拝借して、首からぶら下げているから、このブローチも、
鎖をつけてぶら下げようと思いつき、長野駅前のデパートまで
出かけた。
このところ、服に靴、身の回りの小物など、買い物といえば、
すっかりインターネットの世話になってばかりで、
店に足を運ぶのは久しぶりのことだった。
デパートの宝石売り場に行って、このブローチに鎖を
つけたいのですがと、応対してくれた若い女性に尋ねたら、
形のちがう鎖をいくつか出して見せてくれる。
値段を見たら、ピンからキリまでいろいろで、
いちばん手ごろなやつを選んで包んでもらった。
丁寧に説明していただき、帰る時も、
こちらの姿が見えなくなるまで見送ってくれた。
きちんとした対面の接客に触れて、
オンラインショップでは得られない温かさが
心地よかったのだった。
応対してくれた女性、誰かに雰囲気が似てたなあと
思いながらエスカレーターで下り、外に出たとたん
ひらめいた。以前、オステリア・ガットでシェフをしていた
祐子ちゃんに面差しが似ていたのだった。
今は地元の八王子で店を営んでいる。
コロナが落ちついたら特急あずさで料理を味わいに
行こうかな。久しぶりに思い出したことだった。
炎天や母のブローチ光りけり。