軽井沢でランチを。
軽井沢へ出かけた。
洋画家、藤田嗣治の作品を展示している
安東美術館が、展示作品入れ替えのために、
しばらく休館するという。その前に、
拝見しておこうと出かけたのだった。小雨交じりの
寒い日で、軽井沢駅を出ると、さらに空気が
冷え込んでいる。矢ヶ崎公園の氷の張った池に
鴨が二羽、暇そうに佇んでいた。
池に沿って歩いていると、わきの広い通りの看板が目に
留まった。何の店かと近寄ってみたら、
お食事 フレスガッセと描いてある。
店を見たら、ツタの絡まった年季の入った
プレハブ造りで、
看板がなかったら通り過ぎてしまう構えだった。
相当な老舗なのかなといぶかりながら美術館へ向かった。
久しぶりに、藤田さんの深い乳白色の少女たちに触れて、
美術館を出て歩いて行くと、東急ハーヴェストクラブから、
赤い傘を差した泊り客が、ぞろぞろと旧軽銀座に向かって
歩いて行く。後について行くと、観光客の姿がまばらで、
通り沿いの店も、どこもシャッターを下ろしている。
いつも混んでいる蕎麦屋の川上庵も、この日は客が少ない。
蕎麦屋の昼酒とちらっと思ったものの、どうも
さっきのフレスガッセが気になってしょうがない。
通りを引き返して店の前まで来ると、高崎ナンバーの車と、
諏訪ナンバーの車が停まっている。
店に入ると、二人連れの先客が二組と男性がひとり、
食事をしていた。品書きを見たら、ソーセージにハムに
ハンバーグなど洋食の店だった。しかもすべて自家製という。
ハムステーキを注文して、
エビスを飲みながら店内を眺めれば、テーブル席が四つ、
その奥には座敷がある。壁にはいろんなポスターや
チラシが貼られ、棚のいたるところに、外国製とおぼしき
人形が飾ってある。
どれも古色蒼然として店の古さを感じさせているのだった。
華やかな軽井沢の町の中で、この店だけ昭和で時間が
止まっていて落ちつく。
運ばれてきたハムステーキを見たら、予想外に量が多い。
肉が柔らかく塩加減も好く、まことに美味しかった。
ナポリタンも食べるつもりでいたのに、
腹いっぱいになり、あきらめた。
店のかたの接客も気持ちが好く、
締めのホットウイスキーで体を温めて、
また寄らせてくださいと言って店を出た。
三月、展示替えの済んだ美術館へ来た折りは、
即決のナポリタン。決めたことだった。
迷わずにナポリタン食う弥生かな。