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上田の桜を。

上田へ出かけた。別宅に荷物を置いてから甲田理髪店に
寄った。
この店のご主人は、施術の間、ほとんど話しかけてこない。
こちらも余計な気遣いをせずに済むのがありがたいのだった。
髪をさっぱり短くして、ほど近い寿司屋の萬寿の暖簾を
くぐる。愛想の好い御主人家族に迎えられ、
お通しのホタルイカでビールを飲んで、握りをつまみに
木曽の九郎右衛門の純米吟醸を酌んでいたら、二階から
ひとり娘のなおちゃんが降りてきた。こんにちは~と声を
かければ、照れたようにニコッと笑う。
お母さん似の美人さんは今年小学校二年生。
久しぶりに会ったら、少し背が伸びていた。翌朝、
コンビニでサンドイッチと缶ビールを買って、城跡公園へ
行くと、花見客がけっこう訪れている。
城門前のしだれ桜が満開で、みんなスマホで写真を撮って
いた。お堀端のベンチに座り、ビールを飲みながら
まわりのソメイヨシノを眺めれば、こちらはまだ五分咲き
くらいの開きようで、来週あたりが見頃とうかがえた。
ってなわけで、翌週再び上田詣でをした。仕事を終えた
夕方、城跡公園に行くと、たくさんの花見客で賑わって
いる。お堀のまわりに唐揚げやらチョコバナナやら
たこ焼きやらの屋台がずらっと並び、テキ屋さんも忙しい。
ソメイヨシノはまさに見頃の満開で、日当たりの好い処は
すでに葉桜になり始め、まことにこの春の足取りが早い
ことだった。
缶ビールを飲みながらひと回り。今年も大好きな上田の
桜を満喫出来て好かった。
公園を出て、今宵の一献にと、久しぶりにかぎやの暖簾を
くぐった。この店も営むご主人家族の感じが好くて、
目立たぬ場所に在るのに、いつも地元のかたがたで
賑わっている。
鮪の刺身で長野の幻舞を酌んで、どじょうのから揚げで二階堂を
ロックで酌んで、酔い酔いに酔っ払った。
翌朝、持参していたカメラの記録を見たら、かぎやの常連さん
のご機嫌に酔っている様子が映っていた。
撮った覚えが記憶にないものの、みなさん好い笑顔をしている。
店も好い、客も好い。馴染みの浅い町にくつろげる店が
有るのは、ありがたいことと眺めたのだった。

酔客の笑顔や春の盛りかな。


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