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休日に。

休日の朝、ガス会社から電話がかかってきた。
空家にしている、実家のガスメーターの件だった。
母が介護施設に入居して空き家になったとき、
ガスを止めてもらった。
ガスを使っていなくても、定期的にガスメーターの検査を
しなくてはいけないというのだった。
この先、だれも住むことがないのなら、
外しちゃうこともできるといい、それではと、
外してもらうことにした。
実家のガスメーターはどういうわけだか、
車庫の中にある。
ほどなく訪ねてきた担当のかたに、車庫の鍵を渡して、
作業をお願いした。郵便局と銀行をまわり、
所用を済ませた昼どき、権堂の蕎麦屋のかんだたへ
おじゃました。カウンターに落ちつけば、
先客の、隣の女性がビールを飲んでいる。
蕎麦屋で昼酒をたしなむ淑女、好いですねえと、
こちらもビールを注文した。
ひたし豆をつまみに杯を傾けていたら、
ビールを飲み終えた隣の淑女は、蕎麦を頼んだ。
あれ、もう蕎麦で締めちゃうの?
この店は日本酒の品ぞろえも好いのに、惜しいなあと、
残念な気分で、ビールから大雪渓の純米に切り替えた。
ナスのからし漬けをつまみながら、大雪渓の澄んだ旨さを
味わっていると、ずずっ、ずずっと、隣の淑女の
蕎麦を啜るテンポが小気味よくて好い。
そして食べ終わったと思ったら、すみません、
北光正宗をグラスでお願いしますと言ったのだった。
なるほど。すきっ腹で日本酒を飲んだら酔いが回る。
まずは蕎麦で腹を満たしてから、締めの一杯と来たか。
なかなかやるではないか。
言葉も交わさず、顔もまともに見なかったけれど、
味のあるひとときを頂戴したのだった。
揚げ蕎麦の小盛で北光正宗を1合酌んで、冷たいもりで
締めた。
炎天下の中、ほろ酔いで歩き回る気力もなく、
そのまま自宅に戻ってシャワーを浴びて、
昼寝を決めこんだ。
うつらうつらと浅い眠りから覚めた夕方、窓の外から蜩の
鳴き声が聞こえてくる。
ようやく蝉も鳴きだして、夏の暑さもいよいよ
増してくる。
階下へ行って、玄関先の郵便受けを覗いたら、
青い封筒が入っていた。車庫の鍵と、
本日ご足労をかけたかたの名刺が入っていた。
長野都市ガス・長野エリアサービスグループ 鈴木翼。
感じの良い若者は翼くんというのか。
好い名前ではないかと眺めたのだった。

浅き夢覚めて薄暮の麦茶かな。

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