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フードバンクで利用者を贔屓(ひいき)する理由
こんにちは!先日、Voicyで、私がボランティアを行っているフードバンクで利用者を贔屓(ひいき)していることについてお話しました。今日、食料の買い出しにマーケットへ行った時も、魚屋の日本のマンガが好きなお兄ちゃんが「€2おまけしとくぜ!」と言って、割引してくれました。
私がスーパーではなくマーケットを選択する理由の1つは、人とのやりとりがあるからです。「いつものこれね」とか「元気?」とか、そんな何気ないやりとりが日常に花を咲かせることがあるのです。
そして、今日のタイトルのように、フードバンクでも利用者を贔屓していること、そしてその背景にある考え方について書きたいと思います。
態度のでかい、中年のおじさん利用者の登場
そのおじさんを見たのは初めてでした。私は毎週木曜日の午前中にボランティアとしてフードバンクでお手伝いをしています。月曜日から金曜日まで毎日開いているフードバンクですが、利用者も人なので、自分の都合の良い日を選んだり、行くと気分が良くなるような人たちが働いている日を選んだりします。
そのおじさんはお店に入ってくるなり、やたら大声で話をしていました。フードバンクでは、フルーツと野菜、パンは無料でカゴいっぱいに持ち帰ることができます。ボランティアスタッフは利用者の健康にも配慮して、既製品ではなくできるだけたくさんのフルーツや野菜などを持ち帰るよう青果品エリアで声をかけます。その男性は料理が面倒だとか、俺はフルーツは食わんとかそんなことを大声で話をしていました。
そして、最後のお会計の時、€0.50ほど予算以上の買い物をしていたので、€0.50分の品物を返却するように促しました。すると彼は「€0.50くらい良いじゃないか(大目に見てくれよ)」と言いだしたのです。
€0.25〜€0.5くらいは大目に見る場合もある
きっとこれまで、別の曜日のスタッフにそうしてもらったことがあったのでしょう。「たった€0.5」と表現した彼は「大目に見てもらうことが当たり前」かのような態度をとっていました。
私がレジ担当をする際、それくらいの値段は「人を見て」大目に見ることがあります。かと思えば、同じ曜日で働いていても大目に見ない人もいます。
そこに厳密なルールはなく、その€0.5がどの商品でオーバーしているのかにもよるし、その利用者が「誰なのか」による場合もあります。
そしてこの日、この男性は「たった€0.5」を大目に見てもらうことはできませんでした。
いつも謙虚な、配慮のできる女性
その一連の流れを見ていた、毎週木曜日にやってくる高齢女性がレジへとやってきました。彼女はいつもスタッフへの対応も丁寧で、ボランティアスタッフもまた彼女が来ると楽しくおしゃべりをさせてもらっています。
「この間勧めてもらったこれ、美味しかったわ」とか、
「いつもありがとう」とか、
彼女は私たちスタッフにリスペクトを示しているということを態度や言葉にしてくれます。私たちは午前中の4時間を無給のボランティアに「自分たちがやりたくて」費やしている訳ですが「あなたたちがいなければ利用できるソーシャルサービスもない」と言ってくれる利用者もいます。
さて話を戻すと、そんな彼女も今回、お会計で同じように€0.5〜€0.75オーバーしてしまいました。彼女は慌てて、
「あら、じゃあどれを返そうかしら…」
と言い出したのですが、私たちスタッフ全員が、
「いいの、いいの。このまま持って帰ってね」
と言ったのです。
さらに、他にも過剰供給された商品を渡して、
「これも持って帰ってくれて良いからね!」
と、マネージャが手渡しました。
「ありがとう。こんなにしてもらって。また来週皆さんに会えるのを楽しみにしているわね」
と、彼女は笑顔で帰っていきました。私たちも手を振って笑顔で彼女を見送ったのでした。
贔屓される理由、贔屓されない理由
誤解のないように言っておくと、ボランティアスタッフが全員女性だから、男性の超過料金を許さず、女性を優遇した訳ではありません。実は前に逆パターンもありました。
利用者がいない時間、リーダーの女性は言いました。
「利用者にとっても"たかが"フードバンクかもしれないけれど、リスペクトはどこでも必要よ。そりゃ、私たちも人間だもの。横柄な態度を取る人に、気に入ってもらえるように振る舞う必要はないし、必要以上に優しくする必要はない。あぁやって自分が€0.5を大目に見てもらえない理由を彼が気付かない限り、彼はこの先もずっとそうやって損をするんでしょう。木曜日が気に入らないならこの曜日を選ばなければ良い。それだけのことよ」
利用者も含め、私たち一人ひとりは人間だからこそ「リスペクト」を持って接する必要があるのです。
利用者とスタッフの間に、役割はあったとしても、それは人間としての上下を表現するものではありません。利用者が偉い訳でも、スタッフが偉い訳でもないのです。利用者(お客様)は神様ではないし、そこでは等価交換が行われているだけのこと。
そして、私たちは人間だからこそ贔屓(ひいき)をします。でもそれは、誰かを蹴落とすための贔屓(ひいき)ではなく、むしろ大切な人たちに大切な想いを伝えるための贔屓(ひいき)として機能することの方が多いはずなのです。
だけど、それを横柄な態度で裏切ってくる人たちがいるのも事実です。そして、それに対して私たち感情のある人間は迎合する必要はないのだと彼女は言いました。
「木曜日が気に入らなければ他の曜日を選べば良い」
これは世の中のサービスにも同じことが言えるかもしれません。自分が気に入らないと思ったことを相手に伝え、改めさせるまで気が済まない人たちが意外と多い世の中。お店の選択肢で言うなら「嫌なら選ばなければ良い」だけの話。もしくは然るべき方法(クレームフォームなど)で店側に伝える方法もあるでしょう。
顧客や利用者のクレームは「より良いサービス提供」を考えるための材料になることは確かですが、それが採用されるかどうかはわかりません。相手に手渡したクレームはその時点で自分の手を離れているというのも事実です。
お客様は神様ではないからこそ
「お客様は神様」は、消費社会を表現する言葉だと私は思います。
恐らくこの国でそんなことを言ったら、多くに鼻で笑われます。「神様じゃねぇよ、等価交換する相手だよ」と。笑
スーパーで商品をちょっと投げた感じでベルトコンベアーに置くレジスタッフは、正直なところ「その程度の給料」しかもらっていません。だからといって商品を投げていい理由にはならない訳です。
ただ、仮にそういった「商品を投げる」ということが常態化してしまったスーパーはどうなるかと言えば、それを不適切だと感じる顧客に「選ばれなく」なるのです。企業にとってはそれで十分な不利益と言えるかもしれません。
結局、その時代の顧客の価値判断によってその企業が生き残れるか生き残れないかに関わってきますが、お客様は神様じゃないからこそ企業側には毅然とした態度が必要だし、お客様は神様じゃないからこそ、顧客は横柄な態度を取るべきではないのかもしれません。
結局、「人が人同士で接する時にどういった態度が必要か」にかかってくるのだと思います。そして、フードバンクの男性は、毅然とした態度の私たちによって「贔屓されない側」へと落ちていきました。つまりあの日「選ばれない(贔屓されない)顧客」になったのです。
便利(効率)が進みすぎると、人はどうなるのか?
オランダという国は、とても効率重視でサクサクとしている反面、泥臭い人間同士のコミュニケーションをかなり大切にしている部分もあるなと思うことがあります。その棲み分けが面白いと感じることも多いです。
ただ、そんなオランダも試行錯誤の連続かもしれません。最近、利便性の重視と人材確保の困難からセルフレジが大規模に導入されたことによって、人との接点がなくなった店舗がありました。そこで何が起きたかというと、接点がなくなったこととインフレのダブルパンチにより万引きが増えてしまい、導入したセルフレジが一気に有人レジに戻ったのです(資材がもったいなさすぎる…)。
その店舗でどのようなサービスが求められ、企業側が何を提供できるかというバランスにもよるかもしれませんが「人との接触がない場面」は人の心に「魔が差す」隙を与えてしまうのかもしれません。そしてそこに追い打ちをかけるインフレ。さて、これをどうやって「人のちから」で乗り越えていくのか?
少し話はずれてしまいましたが、人間同士の接点がないところに人為的な贔屓(ひいき)は生じません。仮に無機質な機械とのやりとりよりも、有機的なやりとりが人々の暮らしを豊かにするのであれば尚更、そこで働く人たちのスタンスや、顧客としての姿勢や従業員へのリスペクトが問われます。
贔屓(ひいき)とはそもそも、良い思いをする人とそうじゃない人の間に差をつけるためにあるのではなく、人が人と接する時に「リスペクト」を示してくれる人に「その想い」を伝えるためにある。
だからこそ、私たちは従業員でも、顧客という立場であっても、自分自身の行動が他人にどのように映っているかを考えながら生きていけると良いのかもしれません。
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