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海外移住者(海外在住者)、日本の公共福祉フリーライド問題

こんにちは!今回はちょっとcontroversial(議論を呼ぶ)かもしれないことについて書こうと思います。海外にお住まいの方にとっては、「これって私のこと?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが…冬の長期休暇を迎える前に、私が書いたこの記事が「誰か」を特定する可能性が低い時期だからこそ、この記事を書こうと思います。※Voicyでもお話しています(日本時間10月24日(木)6:00配信予定)。

このトピックは、ずっと自分の中で書こうかどうか迷ってきたものです。何故迷ってきたかというと、あまりにも多くの周囲の人たち(例えば知人や友人)がこれを利用してきた、もしくは今後も利用するつもりがあるからです。自分がこれを書くことは、彼ら/彼女たちを「敵に回す」ような内容になるのではないか、という危惧がどこかでありました。

ただ、そういった内容だからこそ議題にあげてみようと思います。これは、私たちの国、日本の税金を基盤とした公共福祉に対する意識の問題だと考えています。

海外移住者の中でも非居住者となっている、納税義務の逃れている人たちが一時帰国の際に、日本の公共福祉にフリーライドしているという問題です。


非居住者と、住民票、住民税など

海外移住をするとなる時「これはどうしよう?」と思うのが住民票を日本に残すかどうかの問題です。

住民票を日本に置いて出ていくのか?それとも住民票を抜いて海外に移住するのか?そもそも、住民票を抜く/残すとなるとどんな問題が生じるのか?という疑問が出てきます。

2024年10月現在、海外に生活の拠点を移す場合、住民票を日本に残すかどうかは選ぶことができます。そして、その違いは簡単に言うと、

1. 住民票を残す
住民票登録された住所に基づいて(例えば実家など)、住民税、国民健康保険費、国民年金費を支払う義務が発生する。一時帰国した際、医療費の自己負担額が10割(全額負担)ではなくなる、子連れで帰国した場合、"住民票がその自治体にある"というのは、子どもが公教育に一時的に在籍(体験入学)できる権利を公式に主張できる。

2. 住民票を抜く(非居住者扱い)
1年以上海外での滞在が予定される場合、海外転出届を提出して、発生する住民税、国民健康保険費、国民年金費の義務がないことを届け出る。一時帰国の際には市役所/区役所に(一時的な)転入届を提出しない限り、医療費も全額負担となる。

です。※訂正箇所があれば、どなたかご指摘ください。

私たち家族は2019年に日本から出国する際、海外転出届を提出して、住民票を抜きました。よって、日本における納税義務(住民税、国民健康保険費、国民年金費)は今のところ発生していません。年金に関しては、その支払いを日本にいる誰か(主に家族)に託し、支払いを続けるオプションもありましたが、私たちは一旦、日本での年金の支払いをストップさせていて、日本に本帰国した際に追納しようと考えています。

一時帰国で「転入届」を届け出るとどうなるか?

しかし、このように「海外転出届」を提出しても、一時帰国の際に「転入届」を(簡単に)届け出ることができる自治体が多く存在します。「転入届」とはそもそも、「この国(自治体)にこれから長く滞在します」という意味合いの届出にも関わらず、日本国籍を持っているという理由から、「旅行目的ではなく(長く住むつもり、引っ越しで)日本に戻ってきました」というフリで転入届を提出できるのです。

すると、市役所/区役所等で「ようこそ○○市/区へ!」と言わんばかりに、公共サービスの案内を受けます。もちろん、転入届を提出する際の担当者はその人が「一時的に日本に滞在するつもり」だということを知る由もなければ、知る必要もありません。「あぁ、海外から日本へ(住むつもりで)戻って来られたんだな」と思って処理をしてくれる場合も少なくありません。

そして、同時に健康保険証やマイナンバー、国民健康保険や国民年金の処理も始まります。そして、義務教育期間中の子連れの場合は「お子さんの通う小学校/中学校はこちらになります」という案内を受け、自治体によっては丁寧にその手筈を整えようとしてくれるところまであります。

何故、このようなことをするのかと言えば、「医療費負担が全額ではなくなる」というのは、海外移住者にとってはとても大きなメリットである場合が多く、海外では不安だった医療にまつわる検査を「日本国民価格」で受けようとする人も少なくないからです。歯医者や健康診断、皮膚科や内科…海外では不便なことも「日本語が通じる」という安心感と「全額負担ではない」というお得感で享受できるというメリットがあります。

しかし、税金は納めない

しかし「日本国民である」というだけで一時的に転入届を提出したところで、その2週間後や1ヶ月後にまた「海外転出届」を提出し、区役所や市役所の職員の事務処理を増やした挙句、この滞在期間に発生するはずのあらゆる納税からは逃れることが可能なのです。

例え、市役所や区役所職員に怪しまれたとしても「日本に(長期的に)住む予定だったんですが、やむを得ずまた海外に戻ることになりました」と言えば、どうせ担当者も転入届を提出した時の人ではないことも多いので「そうですか」と処理されるだけの話です。

医療や公教育のメリットを公式に享受するための「一時的な転入」を見破ることは誰にも出来ず、たかが1週間〜1ヶ月程度の滞在のために役所の職員は公的な処理を行い、そして短期間であるからこそ(ほとんどの場合)税金は発生しません。…にも関わらず、「日本国籍を持っている」というだけで、日本の公共福祉にフリーライドすることが許される現実があると理解しています。

「みんなやってる」で横行するフリーライド

そんな「一時的な転入届」を提出することが可能である日本のシステム自体も問題なのですが、私がより問題視しているのは「それをやってもいいことだ」と思っている私たちの中にある「モラル」の感覚です。

そもそも、医療や公教育も含めあらゆる公共福祉に関わるサービスは、全てではないにせよ「納税」によって維持されています。ということは、裏を返せば、そのような公共福祉は「納税者」が享受できるものであって、決して「日本国籍だから」という理由によって享受できるものではないと私は考えます。

いくら海外の移住先の医療が最悪でも、歯科治療費が高額でも、保護者として日本の教育を体験して欲しいと思っていたとしても、「海外に移住する」という決断をしたのは「その人たち」です。逆に海外暮らしの不便さがネックだと感じるのであれば、日本に住み、日本で納税をして、その恩恵を受けるための選択をすれば良いと思います。つまり、海外移住者が「日本人であること」を利用して「日本のいいとこ取り」をしようとするのは虫が良すぎるのではないか?と私は感じているのです。

そして、そういった「みんなやってるし」という感覚こそが、その国(日本)に対してのリスペクトの欠如なのではないかと思うのです。「日本から出たい」「海外で暮らしたい」と思って出た国なのにも関わらず、その「日本」自体を窮地に追いやろうとしているのは、こういった小さな負担であり「私くらい良いっか」という甘んじた考えと行動なのではないかと思います。

高福祉や海外の制度の一部に憧れを抱きつつ、実際自分の国の福祉は「フリーライドしてかまわない」と思っていることが、日本という国の負担になっている…という考え方はできないでしょうか?

「体験入学」が負担だと言えない学校

一時帰国の際にとりわけよく聞くのが、子どもが義務教育期間中の年齢の場合に「日本の公立の学校に体験入学をさせるかどうか」という言葉です。その言葉を聞く度に、公教育に携わっていた私には違和感と心配が生まれます。

「学校の先生たちの負担になっていないだろうか」と。
「そもそも、公教育は塾や習い事ではない」と。

我が子の「日本人」としてのアイデンティティーのために、教育のために、日本の学校を体験して欲しい…その気持ちはよくわかります。ただ、何故受け入れ先の事情よりも、我が子の経験が優先されて当然だと思い込めるのだろう…と複雑な気持ちになります。日本の教育の現状を報道を通して知っていたら、とてもそんな気持ちにはなれません。

ちなみに、この「体験入学」に関しては転入届を提出していなくても、その先の学校が「どうぞ来てください」と言ってくれれば可能ではありますが、個人的に頼る先は公教育の学校ではなく、私立教育(私立学校)であるべきではないかと思います。それ相当の対価(恐らく学費)を支払い、お互いにwin-winである関係の中で行われるべきことなのではないかと思うのです。

これまで、オランダに学校視察に来られた一部の教職員の方々に「実際のところどう思っていますか?」と聞いたところ、教育活動的にポジティブに捉えている声も聞く反面、「でもまぁ正直、負担ではないとは言えませんよ、そりゃ」という意見も聞こえてきました。しかし、仮に転入届を出された場合は、「子どもが義務教育を受ける権利」が公式に発生するため、学校も拒否は難しいのです。そして、それを大義名分として利用する人たちもいるようです。

一時帰国で転入届を出してみた時の気持ち

そんな私ですが、打ち明け話があります。

実は私たち家族も1回だけ一時帰国の際に「転入届」を提出したことがありました。あたかも「海外から日本に戻ってきた(引っ越してきた)家族」という扱いを受けて、あらゆる処理をしてもらったのです。

その理由は、実際にこのプロセスがどういったものなのかを自分の体験として知りたかったというのがあります。そうやって体験してみた結果どう思ったか…

「二度とやってはいけない」

と思いました。人を、制度を欺いた感覚がずっと残りました。
もしここに罪悪感が伴わないとしたら、公共福祉がどのようにして維持されているかを、もう一度勉強し直した方が良いとさえ思いました。

それ以降、一時帰国の際に「転入届」を提出することはやめました。医療の処置を受ける時も全額負担で支払っています。全額負担だったとしても、日本の医療水準はオランダのそれに比べると高いと感じるし、10割負担で支払っても良いと思える高水準なものであるというのが正直な感想です。

その人のモラルが問われる

今のところ、海外移住者の中でも非居住者にあたる人たちが「日本国籍を所有している」という理由から、公共福祉にフリーライドできる道は閉ざされていません。

一部の報道によると、海外移住した日本人は2022年時点でも約56万人だと言われています。これらの人々の中にはもちろん、海外に拠点を置きながらも(日本での事業などの関係から)日本にも住民票を残し、納税をしている人たちもいるとは思います。しかし、その数は果たしてどれくらいなのかはわかりません。

仮に私たちのように、一時帰国のためだけにあらゆる納税をすることが金銭的負担だと感じる場合は、海外転出届を提出し、海外で非居住者として生活いると思われます。そういった人たちが、バケーションのために一時帰国した際に一時的な転入届を提出することは許されて良いのか…?公共福祉にフリーライドして良いのか?これは、制度の抜け穴であり、同時に個人のモラルの問題なのではないかと思います。

少なくとも私は、公教育に携わっていた人間として「公教育にフリーライドして良い」という感覚は出来るだけ多くの人たちに捨てて欲しいと思っています。我が子の教育的メリットを優先したい気持ちはとてもよくわかりますが、どうか、日本の現状をよく理解して欲しいと思うのです。

個人が享受できるメリットよりも、公共の利益を尊重して欲しい。
決して制度上それが可能であったとしても、
多くの人がそれをやってきたことであったとしても、
もう一度「モラル」を問い直して欲しいなと感じています。

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三島菜央<🇳🇱オランダ在住/元高等学校教諭>
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