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Dalton小学校視察記録:「学校というチーム」の"リーダー"として心がけていること

このマガジンでは、オランダにあるDalton小学校を学校見学させていただいた時のことをまとめています。

今回インタビューさせていただいたのは、去年の8月から公募校長制度を利用してこの学校長に着任したアネットさんです。

この記事では、アネットさんが民間人校長としてどのように教職員のリーダーとして働いているのか、どういった哲学をお持ちなのかをご紹介します。


裁量権の大きいオランダの校長

オランダの校長先生は日本に比べて裁量権が大きいと言われ、名ばかりの「学校経営」ではなく、本当に1つの会社を経営しているようなイメージを持つことがあります。その理由の1つとして、オランダの多くの小学校では、学校グループごとや、学校ごとに教職員の採用を行います。

これはつまり、日本のように都道府県や地方自治体一括採用で人事が行われるのではなく、もっと小さい単位で教職員の採用が行われるということです。

そういった「裁量権」が大きいことは「自由」であるということですが、自由であるということは同時に「責任」が伴うということでもあります。

「校長という仕事はとてもクレイジーな仕事です。笑 一般的な職員であれば同時進行で抱えているプロジェクトはせいぜい3〜5個くらいかなと思うけれど、私の場合は35個くらいあるイメージ。いつも「やるべき何か」がそこにあって、それは突発的に増えたりするのです。残業もするし、とても大変な仕事です」

オランダは「働き方改革」で一歩先を行っているとは言われますが、教員不足が深刻化しているオランダにおいて、校長の仕事は増えているのかもしれません。

校長の仕事の面白いところ

"国際色豊か"な学校で働くことは苦労も多いというアネットさん。それでも、校長という仕事の魅力は何なのでしょうか。

「学校長という仕事をしていると"自分が誰なのか"ということを自分自身でよく知っておかないといけないということに気づきます。それは役職という意味ではなくて、私の人間性の話です。自分の倫理観はどこにあるのか、いつも心の中が平穏であることを心がける必要があるし、バランスの取れた人間でい続ける努力をしなければ、多くの異なる人々をまとめることは難しいです。教職員について、クラスについて、生徒について、保護者について、学校の外の組織について...そういった多くの異なる人たちといい関係を築い仕事を進めていくためには、自分のことをよく知っている必要があって、いつも鏡の中の自分を見つめているような気になるんです。でも、それが面白い。私は私のことをよく知ることで、人とよく関わっていけるということですね。とても人間らしいでしょう?」

アネットさんは、仕事を通して自分自身がどんどん成長することを望んでいます。自分の中にある価値観と常に向き合い続けること。それは時に苦労が伴うと彼女は言っていました。それでも、明るい教育のために彼女はそれを諦めたくないし、それさえ楽しみたいと言っていました。

教職員との関わりで気をつけていること

価値観の異なるグループと関わる校長ですが、まずはチームとして関わる教職員との接し方や人間関係の築き方が大切になってきます。アネットさんは何を大切に教職員と関わっているのでしょうか。

「信頼関係を築くために必要なのは、オープンなコミュニケーションです。とにかく相手を知ること。そして相手が"自分のことを知ってくれている"という安心を得られていることが前提です。私は教職員とのコミュニケーションをとても大切にしているし、よく話しかけて、近況を聞くようにしています。最近の仕事はどうか、困ったことはないか、改善したいことや挑戦したいことがあるか、そういったことをきちんとシェアできる先に自分がいたいのです。これを毎日行うこと。毎日、毎日行うこと。そうやってチームはバランスをとれるようになっていく。継続的なオープンコミュニケーションなしにチームはアップデートされないと考えています」

これは国民性とも言えるかもしれませんが、企業で働く人たちに話を聞いても「マネージャー」と呼ばれるような役職に就く人たちに求められるのは、部下たちがオープンなコミュニケーションをするための能力、つまり、そういった環境や関係を作り出せる能力だと言われます。アネットさんも例外ではなく、教職員全体にとって働きやすい環境づくりを日々のコミュニケーションで乗り越えていこうとしているようです。

誰しも「得意なもの」を持っている。それを活かせる場所を与える

「教職員の中にも、変化を嫌ったり、振り返りのできない人はいませんか?」そういった問いに対して、アネットさんはこう答えました。

「そうですね。いますね。子どもたち一人ひとりが違うように、教職員も一人ひとり違います。でも、どんな教職員も一人ひとり良いところがあって、得意なところがある。それを教育の中で活かして欲しいと思っています。そのために私ができるのは、まず、それぞれの教職員の得意な部分を私が理解すること。そして、そういった能力が活かされるようなポジションを用意すること。自分の能力が活かされているということを実感して、幸せに生きてほしい。だから、私は彼らが変化のあとに幸せを感じられるようにポジションを用意したいのです」

「"振り返り"というのは教える立場の人間にとって"オプションの能力"ではありません。"マストな能力"つまり、必ず持っておかなければいけない能力です。振り返りのできない人に、何かを教える資格はありません。振り返りなしに学びは前に進みませんから。そこに関しては絶対だと私は思います。でも、時々振り返りができない人がいますね。そういった場合、何がバリアになっているかというと"自分の至らないところを認められない"という気持ちが作用しているんだと思うんです。だから、私は常々、人はミスする生き物だということを言い続けています。それは私も同じ。だから、ミスを許容する雰囲気をあえて作ります。ミスをすること、上手くいかないことは全然問題ではありません。みんなで一緒に乗り越えていけば大丈夫。きっと次はうまくいく。そのことを伝え続けていくことで、振り返りのできない人も振り返りができるようになります。できるように雰囲気を作っていくんです」

「教職員には幸せに生きていて欲しい」

彼女は真っ直ぐな目でそれを伝えてくれました。そのために校長としてできることに彼女は尽力しています。得意なことが活かせる職場、振り返りが出来る人を育てる職場、校長として全ての教職員が安心して安全の中で豊かに生きていける環境を整えることが、豊かな人材を形成することにつながる。アネットさんはそう教えてくれました。

教育を大切に思うのなら、生徒を大切に、生徒を大切に思うのなら、教職員を大切に

このように愛に溢れた話をしてくれるのはアネットさんに限ったことではありません。私はこれまでオランダの先生たちと話をして、何度も涙を流しそうになりました。いつも愛に溢れていて、本音と建前を使い分けない彼らは、何を大切にしたいのか、そのために遡って本質的に何を守らなければいけないのかを教えてくれます。

生徒だけに目を向けることは決して教育を良くしていくことにはつながらない。生徒に接している教職員の環境を整えなければ、その重たい空気は生徒たちに伝わってしまうのです。

「私の最大の仕事は教職員を守ること、アップデートすることです」

アネットさんの「教職員」という言葉の先には、もちろん生徒がいて、教育があります。

次回は、「学校と保護者の関わり」について

"行動に問題があるクラスがある"と話をしてくれたアネットさん。さて、この学校ではどのようにしてそういった問題を乗り越えていくのでしょうか。学校は保護者に対してどのような姿勢を見せていくのか。そういったことについて書きたいと思います!

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