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フェルメール28作品が大集合!アムステルダム国立美術館にて

日本人に大人気のフェルメールですが、本場オランダでもめっちゃめちゃ人気があります。理由のひとつはその希少性にあるのでしょう。本当にフェルメールが描いたのかどうか疑わしいものも含めて37点ほどしか作品が見つかっておらず、それらが欧米を中心に大小の美術館に点在しています。

そのうちの28作品がオランダ・アムステルダムの国立美術館(Rijksmuseum)で展示されるというので話題沸騰!チケットのオンライン予約が殺到し、一時期はシステムダウンにも陥っていました。やっとのことで繋がったと思ったら、2月10日~6月4日の開催期間中のすべてがソールドアウト。美術館側もこの需要に対応して、早朝と夜も開館することにしましたが、それでもチケットをゲットするのは大変なことになっていました。

半分諦めかけていたところ、なぜか2月17日の夜の時間はチケットがまだあったので慌ててポチッたところ、なんとか予約が取れたので、先日は1人、夜のアムスに繰り出したのでした。

夜の美術館。時間を区切って入場者を制限しているとはいえ、かなり込み合っていました。

初期のフェルメールは宗教画も

展覧会の最初の部屋には、フェルメールが住んでいたデルフトの街を描いた「デルフト眺望」と「小路」が展示されています。しかし、「フェルメールを見るぞ!」と意気込んできた人々で最初の部屋の混みようはすごくて、もう大きな「オランダ人の壁」のすき間からデルフトをちら見する…という事態になったので、これはささーっと見るだけに。この2つの絵は普段から国立美術館やデンハーグにあるので、今回は普段オランダでは見られない作品を特にじっくりと見ようと心に決めました。

2番目の部屋にはフェルメールの20代の頃の作品が並んでいます。この頃のフェルメールは宗教画を描いていました。

「マルタとマリアの家のキリスト」

上の絵はスコットランドからやってきた「マルタとマリアの家のキリスト」。ちんまりした絵の多いフェルメールにしては、160×142㎝とかなり大きめの絵です。日常を描いた後期の絵よりもタッチが荒いですが、柔らかい光の感じはフェルメールっぽいです。

そして下の絵は「聖女プラクセデス」。こちらは東京・上野の国立西洋美術館からはるばるオランダに戻ってきました。ピンクの鮮やかなドレスが背景の青に映えて素敵です。恥ずかしながら、日本にもフェルメールがあるとは知りませんでした。さすがフェルメールファンの多い日本!

「聖女プラクセデス」

そして、ドイツ・ドレスデンから来た「取り持ち女」。娼婦に金貨をかざす酔っ払いの客の横にいる老婆が「取り持ち女」。日本語ではいわゆる娼館の「やりてババア」?その横にいる第4の人物(いちばん左端)は、客の友達っぽいですが、これが「フェルメールの自画像ではないか」と言われているそうです。写真がうまく撮れていないのですが、かなりニヤけた嫌らしい感じの男。これがフェルメールだったら嫌だなあ!まあ、仮説にすぎないので、真相のほどは分かりません。

「取り持ち女」

さて次の部屋に入ると、宗教画からは一転して、「フェルメールらしさ」を感じる風俗画が出てきます。「取り持ち女」と同じく、ドレスデンから来た「窓辺で手紙を読む女」です。

「窓辺で手紙を読む女」

これは近年まで背景の壁が白く塗りつぶされていたのですが、修復作業によりキューピッドの絵が現れました。白く塗りつぶされていたころの方が静かな雰囲気で、より「フェルメールらしさ」が出ているように思われます。評論家の山田五郎先生も「台無しだよ!」と残念がっておられます。しかし、窓辺で何かをする人物像、手紙、柔らかい光、カーテン、テーブルクロス、画中画……といった、フェルメールのスタイルは、この頃から確立されてきたようです。

フェルメールは画中画をよく描き、そこに寓意を含ませています。この絵の中のキューピッドの絵は、手紙の内容がラブレターであることを暗示していると言われています。

窓辺で手紙を書いたり読んだりする女性は、フェルメールのお気に入りのモチーフです。

「手紙を書く女」(オランダ・ロッテルダム)
「手紙を書く女と召使」(アイルランド・ダブリン)

楽器を弾く女性もよく描かれています。下の2枚はロンドンのナショナルギャラリーからやってきた「ヴァージナルの前に立つ女」と「ヴァージナルの前に座る女」。ほかにも「ギターを弾く女」「窓辺でリュートを弾く女」などがあります。これらの絵の中に描かれている画中画にも、寓意が込められているといいます。

「ヴァージナルの前に立つ女」
「ヴァージナルの前に座る女」

手紙と楽器以外では、窓辺で手芸をしたり、天秤を持ったり、水差しを持ったり、真珠の首飾りを持ったりする女性の姿が、窓から入る柔らかい光の中に描かれています。

「レースを編む女」(フランス・パリ)
「天秤を持つ女」(アメリカ・ワシントン)
「真珠の首飾り」(ドイツ・ベルリン)
「真珠の首飾り」拡大。この優しさ、フェルメールにしか出せないものでしょう!

そして下は珍しく男性を描いたもので「地理学者」。フェルメールはほかに「天文学者」を描いていますが、これは今回、展示されていませんでした。並べてみたら面白かったかもしれません。「天文学者」はパリのルーブル美術館にあるそうです。

「地理学者」(ドイツ・フランクフルト)

女性が訪問者と過ごしている絵もいくつかあります。下は絵の全体図ではありませんが、ドイツ・ベルリンからやってきた「紳士とワインを飲む女」。

「紳士とワインを飲む女」(ドイツ・ベルリン)

下の2枚はニューヨークの「フリックコレクション」という小さな美術館からやってきたもの。どちらも若い女性と男性が描かれています。フリックコレクションの絵は、ほかの美術館には貸し出さない方針だったらしいですが、それは変更されたらしく、今回の展覧会では同美術館が持つ絵は3点とも展示されていました(残りのひとつは「女と召使」)。

「兵士と笑う女」(ニューヨークのフリックコレクション)
「稽古の中断」(ニューヨークのフリックコレクション)

『フェルメール全点踏破の旅』(朽木ゆり子著)によると、この絵を買ったヘンリー・クレイ・フリック氏はコークスや製鋼の事業で巨万の富を築きましたが、従業員のストライキ弾圧で多数の死傷者を出したり、私生活では長女や次男を相次いで亡くしたり、心理的に傷を負って生きた人だったそうです。その彼が最も気に入っていたのが、この「兵士と笑う女」。2人が談笑している様子が、自分と娘の楽しい語らいの様子を思い出させたのだそうです。
フェルメールが描いたのは、おそらく父と娘ではないのでしょうが、この絵の中の女性は本当に楽しそうに笑っており、黄色っぽい光が優しく満ちた部屋に流れる幸福な時間を感じさせます。フリック氏が目を細めながらこの絵に見入っていた様子を想像すると、とても切ない気持ちにもなります。

最後に、女性の半身像。美術史用語では「トロ―ニー」と呼ばれている絵です。下の絵は2枚ともワシントンの「ナショナルギャラリー」からやってきたもの。印象派を彷彿とさせる粗めタッチの絵で、未だに本当にフェルメールが描いたものなのかは議論されています。

「赤い帽子の女」(ワシントンのナショナルギャラリー)
「フルートを持つ女」(ワシントンのナショナルギャラリー)

そしてフェルメールのトローニー代表作といえばコレ。「真珠の耳飾りの少女」です。普段はオランダ・デンハーグにある「マウリッツハイス(Mauritshuis)」に展示されており、私も何度か見たことがあるのですが、このフェルメールだらけの特別展にあってもこの絵にはハッとさせられるものがありました。このピュアさ、美しさ、清潔さ、驚き……。モデルは誰だろう?画家との関係は?彼女は何を感じているのだろう?想像力をかきたてられるこのトロ―ニーからは、多くの小説や映画が生まれています。

「真珠の耳飾りの少女」(オランダ・デンハーグ「マウリッツハイス」)

人が多くて、1つ1つの作品を見て回るのに時間がかかりましたが、じっくりフェルメールに浸ることができたのは、本当に至福の時間でした。みんな、なぜこんなにフェルメールが好きなんだろう?おそらく、彼の作品の、あの静かで優しくて、やわらかくてあたたかい雰囲気が、人々を幸せな気持ちにさせるのでしょう。フェルメールの作品にはセロトニン効果がある!

今回は普段オランダで見られる作品をほとんど紹介しませんでしたが、デンハーグやアムステルダムにある作品群は、やっぱりフェルメール最高峰と言えるものです。オランダにお越しの際は、ぜひとも「フェルメールの梯子」をしてみてください!

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