歴史あり、アートあり。充実の穴場、ブラバント州ミュージアム
5年毎に更新する永住ビザの手続きのため、デンボスを訪れた。私の住むオランダ南部のアイントホーフェン市から北に向かって電車でも車でも30分ほどのところにある古い街で、ブラバント州の州都でもある。
ビザ手続きのために事前にネット予約した時間より、随分と早く着いてしまった。「5分間早く来てしまったら、5分間建物の外で待たなければなりません」と、メールにわざわざ書いてあったので、20分も早く着いたら散歩でもしなくちゃならないかな…と思っていたが、ダメもとで窓口に行ってみたら意外にもすんなりと中に入れてくれた。
中は空いていて、すぐに窓口に座ることができた。しかし、機械が古いのか、それ以降の手続きが結構てこずった。はじめの窓口ではデジタルで指紋を取って、写真を撮ってもらうところまではうまくいったのだが、機械が電子サインをちゃんと読み込めず、窓口を変えて再トライした。
今度は電子サインと写真はうまくいったのだが、指紋が読み込めない。しまいには、窓口のおじさんに「あなたの指は質が悪い」と言われてしまった。窓口の人も移民なので、オランダ語で多分うまく表現できなかったのだろうが、おじさんのコメントが可笑しくて、笑いをこらえながら写真を撮ってもらったので、ひょっとこみたいな顔に写ってしまった。
早めに用事が済んだので、デンボスに来たついでに前から気になっていた「Het Noord Brabant Museum(ブラバント州ミュージアム)」に向かった。センター街の小道をぶらぶら歩き、小さな店を覗く。アイントホーフェンと違って、ここは個人経営のおしゃれなセレクトショップがたくさんある。街の雰囲気もシック。
ブラバント州ミュージアムは、街中の素敵なところにある。ロッカーに荷物を入れて、最初に入った部屋には、20世紀初頭に活躍した地元の画家、Jan Sluijters(ヤン・スラウターズ)の絵が並んでいる。自宅のバルコニーの赤いゼラニウム、オモチャや花がちりばめられた子どもの誕生日、若い肌をあらわにする婦人の肖像――どれも色が鮮やかで明るく、かわいさと楽しさに満ちている。この画家は初めて知ったが、いっぺんでファンになってしまった。
2階にはブラバント州生まれのゴッホの作品もある。ゴッホは37年の短い生涯で23カ所に住んだことがあるそうで、そのうちの多くはオランダのブラバント州内である。特に絵描きになると決心してから同州Nuenen(ニューネン)で過ごした日々には、農夫やジャガイモ、風景などを熱心に描いて練習していたそうで、その時の茶色くて、土臭い絵画が同ミュージアムに展示されていた。
その後、ゴッホがフランスに移住し、いろいろな画家の影響を受けながら画風が変わり、晩年は南仏の精神病院で過ごしていたのは有名な話だ。晩年、彼が弟のテオに宛てた手紙には、故郷のブラバント州を美しく、懐かしく思い出す描写がある。回復して精神病院を退院できたら、故郷に帰ろうと思っていたらしい。彼の人生に触れると、いつも切ない気分になる。不器用でも一生懸命生きたことが、彼の作品に現れているからなのだろう。意外と端正な彼の手書きの文字を見ながら、ちょっと泣きそうになってしまった。
同じフロアには、15-16世紀に活躍したヒエロニムス・ボスの作品も展示されている。多くはレプリカなのだが、スターウォーズ顔負けの不思議な生き物を間近で楽しめるのは嬉しい。ほかにも18世紀当時の庶民の生活が細かく描かれたブリューゲル親子の作品や、17世紀のオランダ黄金時代を象徴する精緻な静物画など、見ごたえたっぷりの絵画をたくさん見ることができた。
さらに、このミュージアムはアートだけでなく、歴史博物館にもなっている。古代の石器や土器の展示からはじまり、中世、近世…と、映像や模型でもデンボスを中心とした同州の歴史が分かりやすく紹介されていた。南部カトリックのデンボスは、フランスに支配されていたときの影響が大きいらしい。今の街の姿がおしゃれでシックなのも、その名残なのかもしれない。
途中、中庭の新緑を望むカフェで休憩した。ブラバント州名物の「Worstbroodje(ソーセージパン)」を注文したら、ソフトクリームを立てるような金具に立てた状態でサーブされてきた。地元のスナックもここではちょっと気取っている。味もそこらへんのカフェで食べるよりも外がカリッとしていて、中がジューシーで美味しかった。
休憩も入れて、トータルで2時間半もじっくり見てしまった。でも、アムステルダムなどのミュージアムと比べると空いているし、素敵な空間をゆっくり歩くことができて、全く疲れを感じなかった。
ちなみに、ここは「デザインミュージアム」が裏手にあって、チケットは別に買わなければならないけど、ついでにミュージアムを梯子することもできる。次回はそちらもぜひ行ってみたい。
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