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中高生をやる気にさせる、オランダのポジティブ三者面談
先日、中学2年生の息子の三者面談があった。コロナのご時世、「Microsoft TEAMS」を使ったオンライン面談である。
息子は成績が悪いので、この三者面談に先立って息子と私の間には口論が絶えなかったのだが、結論から言うと、面談の後には2人とも海辺の風に吹かれたかのような爽やかな気分になっていた。この面談、かなり印象深かったので、自分の忘備録としても記しておきたい。
将来の夢は「フリーランニングのプロ」
夜7時ぴったりに始まった面談で、先生は冒頭に言った。
「質問票にはちゃんと答えを書き込んだよね?じゃあまずは、君が書いたことを発表してもらおうか。じゃあ、1番目から。将来就きたい職業、そのためにどのような進路に進みたいか?」
子供たちは事前に質問に答える準備をするため、3つの質問が記された紙を渡されていたのだ。
息子は家では見せたことがないほどはきはきと答え始めた。
「はい、僕は将来、フリーランニングのプロになりたいと思っています。そのためにA校に行きたいと思っています」
「フリーランニング」とは、「パルクール」とも呼ばれる新種のストリートスポーツで、街の塀とか柵とかを飛び越えたり、ジャッキー・チェンみたいに宙返りしながら走ったりするものだ(詳しくは過去記事参照)。「将来の夢」として「フリーランニングのプロ」を公言し、レベルの高くない「A校」という専門学校を目指していると言った息子に対して、私は横で苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。
「フリーランニングのプロ?それは、職業として成り立っているのかい?」
先生は率直に聞いた。すると息子はまたはきはきと、「はい、周りにもプロとして活躍している人がいます」と答えた。
「そうか。なんでA校なの?そこの体育科に行きたいのかい?」
「はい。僕のフリーランニング仲間がそこに行ってます」
「ふ~ん、そこでフリーランニングを専門に学べるのかどうかは分からないけど、まあいいや。とりあえず、先に行こう」
改善したこと、誇りに思うこと
2番目の質問は「最近、自分で改善したと思うこと」。
息子はまず、「試験前にプランを立てられるようになりました」と答えた。
すると先生は、メガネをかけなおしながら大きく頷いて、「いいね。続けて!」と言った。
「勉強するときに図を描くようにしたら、よく分かるようになりました」
「ほお、例えばどんな科目で?」
「物理とか」
「物理ね、いいね。もっと続けて!ほかに何か改善したことある?」
「え~全般的に物事をよく覚えられるようになりました」
「勉強全般が改善!いいね!もっとある?」先生は満面の笑みで大きく頷いて、さらに答えを促した。
「え~と、そんなもんです」
「そうか、それなら次。3番目の質問。自分が誇りに思っていることは?」
「僕は授業に集中できるのが誇りです」
「ほお!気が散らないんだね」
「はい。クラスはワサワサしてますけど、僕は集中できるんです」
「周りがうるさくても集中できるのはすごいね!続けて、続けて!」
「え~と、あとは試験前にプランを立てられるようになったのが誇りです」
「素晴らしい。ほかにもっとある?もっと続けて!」
「う~ん、もうありません」
目標を設定するのは子供たち
3つの質問が終わったところで、先生は続けた。
「それじゃあ、ちょっと前のポイントに戻るけど、フリーランニングのプロになるためにA校の体育科に行きたいんだよね。そこに入学するためにはどんな科目を頑張らなくちゃならないか知ってる?」
息子はすかさず、「体育です」と答えた。すると先生は笑って言った。
「そりゃそうだ。でも、体育だけじゃ入れないぞ。ほかにどんな科目で準備が必要なのか、それは知ってる?」
「それは知りません……」
「じゃあ、それ、一度自分で調べてみて!」
「はい」
「それで長期的な目標は置いといて、短期的にはどんなことを目標にしている?」
「短期的には、HAVOの3年生に進級したいです」(「HAVO」はオランダの職業大学進学コース。詳しくは過去記事を参照)
「じゃあ、そのためには何をしなくちゃならないと思う?」
「今、平均以下の課目を全部「6」以上(平均以上)にすることです」
「そのためには何をしなくちゃならないと思う?」
「数学とか分からないところは、放課後に追加で指導を受けようと思います」
「そうか、もし放課後に追加で何か聞きたいというのなら、それができるようにしよう」
「はい」
上だけを見させる。
「じゃあ、ここでお母さんとバトンタッチしましょう。何か言いたい事や聞きたい事はありますか?」
ここまで黙って聞いていた私は、ようやく先生から質問をふられて、「待ってました!」とばかり口出しし始めた。
「オランダは日本とかなり進路を決めるシステムが違うので、正直ちょっと戸惑っています。息子はまだ13歳で、世の中に一体どんな職業があるのか、よく知りません。『フリーランニングのプロになる』というのも、『A校に行きたい』というのも、彼の小さな世界で知り得た、ほんの限られた選択肢に過ぎません。ここで『フリーランニングのプロになるためにA校に行く』と決めちゃっていいのでしょうか?」
肝心な時にインターネットの電波が悪くなったが、ガジガジする画像の中でも先生が頷きながら笑っているのが分かった。
「そうですね。『将来の夢は?』と聞かれて、『まだ何になりたいか、全く分からない』という子がほとんどです。だから、Mくんみたいになりたいものが明確になっている子は珍しいんですよ!でも、将来の進路についてはA校だけに絞るのではなくて、もっと幅広く一緒に見てみるようにします」
私は少し安心して微笑んだが、すかさず次の質問を投げかけた。
「息子の今の成績はすごく悪いですけど、このままいくと落第になったり、レベルを落としたコースに進まなくちゃならないのでは……?」
すると先生は、コンピューターの画面を眺めながら、「えーと、平均以下の課目も「5」が多いから、これが「6」になれば一気に取り返しがつきますよ。まだ大丈夫です」
「でも、総合点が何点以下だったら落第になるんでしたっけ…?」
「え~と、それは忘れましたが、総合点が『+6』だったらHAVO3年生に進級できますよ。ほかに何かありますか?」
私はさらに続けて聞いた。
「はい。体育の道に進むから、体育だけ頑張ればいいと思っているみたいなんですが、ほかの勉強のモチベーションを高めるにはどうすればいいでしょうか?」
先生はまた笑いながら答えた。「A校に行くには、体育だけ頑張ればいいということはないですよ。それは調べればわかります」
そして息子に向かって、「A校に行くにはどんな科目が必要なのかを調べてごらん。これは宿題だよ!」と言った。
「はい」
私はまだまだ話したい気分だったが、そろそろ時間が来てしまった。先生は最後に息子に向かって、「それじゃあ、まずはすべての課目が平均以上になるように頑張ろう。また明日ね!」と言って、面談を締めた。
「ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
ポジティブはやる気を呼ぶ
先生に何を言われるか、面談前は親子で戦々恐々としていたのだが、蓋を開けてみれば、終始子供たちのポジティブなことしか語られなかった。唯一、ネガティブだったのは私の質問。しかし、先生は「落第」とか「レベルを落とす」といったことには一斉答えず、「どうすれば子供が立てた目標を達成できるか」といったことだけに私たちの目を向けさせた。
将来の目標だって、13歳の子供が立てることなど、その後変わってしまうことは先生も百も承知だ。しかし、それでも現時点での息子のやりたいことを最大限尊重し、それに向かって進む力をいい方向に利用している。
考えてみれば、私が息子にやってきたことは、「そんな点数では進級できないぞ」「勉強しないとバカになるぞ」と脅迫することばかり。今回の超ポジティブ面談では、私自身がバッテンをつけられたような、そんな気持ちにさせられた。
しかし、将来の目標や短期的な目標に達するための計画などというものは、親の私が息子から引き出すのはなかなか大変なこと。学校の先生が話し合ってくれるからこそ前向きに進むという側面もある。先生がこうして子供をポジティブに導いてくれるのは、本当に有難いことだ。
現在は中間テストの真っただ中。面談を受けた後、息子はやる気を出して頑張っている。