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専門外来を始めてみよう

同業の(医師の)友人や後輩から、「自分の専門の仕事に集中したい」というような話を時々聞きます。それには専門外来を作ってしまうのが一番効率的です。

ちなみに、以前から内科などは糖尿病内科、循環器内科、呼吸器内科、神経内科・・・などのように専門で分かれているのはよく知られていると思います。でも、最近では、眼科とか耳鼻科とか歯科なんかでも、結構専門に分かれているのです。例えば、眼科なら、角膜、緑内障、網膜・硝子体、斜視、眼瞼、涙道、神経眼科・・・などのように。

私は複数の病院で専門外来を担当しています。中には、スタート時点から担当しているところもあるので、専門外来の運営の仕方については少しは慣れていると思います。なので、専門外来の始め方について書いてみようと思います。


専門外来の始め方

看板を上げる

最初にすることは、何の専門外来かを自分で決めて、看板を上げることです。上司に「〇〇先生、△△外来をやって」と言われれば話は早いですが、言われなくても自分の得意な分野で立ち上げることは可能です。

もちろんその場合は、上司を始めとした関係者に「こんなことをやりたいんですけど」と話して、許可をもらい、具体的に何曜日の何時からどこで何をする、と言うことを決めなくてはなりません。

内容は、自分の得意なことです。専門外来制にすると、当然地域の他の病院やクリニックからその疾患の患者さんが紹介されてきますから、その疾患については大体のことはわかる、できる状態でないといけません。

何の外来にするか、いつするかなどが決まったら、病院の担当表やウェブサイトに載せてもらいます。


集患する

看板を上げたら、次にすることは患者さんを集めることです。

院内の先生たちからその疾患の患者さんを回してもらえる場合には、順調な滑り出しになります。しかし、その病気がとても頻度の低い病気だったり、周りの先生たちに「治療しない病気」だと思われてしまっている場合には、積極的に院内・院外から患者さんを集めなくてはなりません。

院内の先生たちに周知するのはそれほど難しくないと思います。直にお願いしてもいいですし、院内で勉強会などを開いて、そこで周知すれば良いからです。

一方、院外から集めるには、ある程度自分で行動を起こす必要があります。

院外から集める方法には、以下のようなものがあります。

  • 地域の病院に「こういう外来を始めました」というハガキや手紙を送る

  • 地域の勉強会や集談会などで積極的に発表する

  • 地域の先生たちと仲良くする

専門外来を立ち上げたことは、自分から言わないとなかなか気づいてもらえないものだです。また「〇〇外来を始めました!」と言われても、場合によっては患者さんを紹介すると何をしてくれるのかがなかなか伝わらないということもあります。”紹介してもらえばその患者さんにどんなメリットのあることをできるのか”をわかりやすく発信する必要があります。

そして、もう一つ重要なことは、医者は自分が好感を持っている医者にしか患者さんを紹介しないと言うことです。どんなに腕が良いと評判でも、嫌いな人、知らない人にはなかなか紹介しないものです。なので、地域のドクターたちとは、積極的に好かれるまで行かなくても、顔を見れば気軽に挨拶して笑顔で二言三言、言葉を交わせる、ぐらいの関係にはなっておく必要があるし、その方がそれ以外の時にも何かと助け合えて良いものです。

さらに、関東、関西などの広い地域や、場合によっては全国から患者さんを集めたい場合には、

  • 学会発表をする

  • 専門誌に投稿する

などの積極的な行動に出る必要があります。最初は症例報告などの小さな演題で良いので、自分の専門に関わる演題を一般演題として出します。それを年に何回か繰り返していると、そのうち興味を持った人が話しかけてくれたり、場合によっては指名の演題が回ってきたりするようになります。そこまでいけば、かなり紹介率が上がってくるはずです。


情報収集は怠らない

専門外来をするということは、その疾患に関しては一般のドクターより良く知っている、ということですから、しっかり勉強する必要があります。

疾患のメカニズムや教科書にまだ載っていない最新の知見まで知っていないと、信頼して患者さんを紹介してもらえません。看板を上げたからには、専門の学会やセミナーなどには出かけて、少なくともその分野だけは最新の論文などもチェックして自分で情報収集をするように努めましょう。

何か質問された時、幅広く集めた情報をもとに自分の見解をきちんと述べられるようであれば、信頼されて次の紹介につながっていきます。


紹介元との関係を大切に

紹介状の返信は丁寧に

他の病院に患者さんを紹介するときは、紹介後もとても気になるものです。自分の診断は正しかったのか、紹介のタイミングはあれで正しかったのか、どんな風に治療してくれたんだろうか、などなど気にして過ごしているので、返信が返ってくるとすぐ開けて中を確認します。果たして自分の診断が正しくて、早いタイミングで治療をしてもらえたとわかると、「ああ、良かった!」と嬉しい気持ちになるものです。

逆に、返信があまりにもぶっきらぼうだったり、「治療の必要もないのに送ってきたの?」と言うようなニュアンスが感じられたりすると、「二度と紹介するもんか!」と思うものです(そして、本当に実行してしまうこともあります)。

ということは、専門外来を立ち上げた時、そこに紹介してくださるドクターは、同じ気持ちで返事を待っているはずです。紹介状の返信はなるべく丁寧に書く必要があります。

病名と現状、今後の治療方針はもちろんのこと、早いタイミングで紹介してもらったので早く治療を始められた場合には、

「良いタイミングでご紹介いただいたので、すぐ治療の予定が立てられました。ありがとうございます。」

と書きましょう。

もし、紹介元の先生が少し心配しすぎて、やや早すぎる紹介だった場合には、

「今はまだ急いで治療をする必要はありませんが、今後は〇〇に注意して経過観察していただき、△△の状態になったら再度ご連絡ください。お手数をおかけしますが、引き続きよろしくお願いいたします。」

と書きましょう。

紹介元の病院にない器械で測定したデータなどは、極力コピーをつけて、診断の根拠を示すようにします。器械があればこそ診断ができるというものも多いですから、情報はなるべくシェアした方が良いのです。


逆紹介は原則紹介元へ

治療が終わり、もう専門外来で診なくて大丈夫という状態になった患者さんは、積極的に紹介元の病院・クリニックにお返しする必要があります。しっかり逆紹介することも、専門外来の大切な仕事です。

逆紹介する時には、どのような治療をして、今後は何に気をつけて経過観察していただきたいのかを、最初の紹介状の返信と同様に丁寧に書くようにします。患者さんが紹介元の先生に

「とてもよく治療してもらえた。紹介してくれてありがとうございました」

と感謝してくれるようであれば、次の紹介につながります。

間違ってもしてはいけないことは、紹介元と違うクリニックに逆紹介することです。患者さんが遠方に転居してしまい元のところに帰れない場合などを除いては、紹介してくださったところに逆紹介するのが原則です。


専門外来をするメリット

専門外来は、実は患者さんにもドクターにもメリットがあります。

患者さんにとってのメリット

今の時代、医学はあまりに細分化され、専門ごとに非常に深まりました。そのおかげで以前は治らなかった病気がたくさん治るようになったのです。検査や治療の種類も精度も上がりました。でも、それだけ医者が勉強しなくてはならないことも増えました。ということは、一つの病気に精通するだけでも、かなりの勉強量が必要です。すべての病気に精通した医者になるのは不可能になってきています。

ある病気に絞って勉強している人の方が、その病気に関しては突出してわかるようになります。いわゆる”目が肥えている”状態になるので、その病気に関しては早く的確に診断・治療できる確率が上がるのです。そうすると患者さんは、そのような専門のドクターに診てもらった方が、少ない通院で手際よく治療してもらうことができるようになります。

医師本人にとってのメリット

医者にとってもメリットがあります。少ない疾患に的を絞って勉強するので、短い時間でその病気のことに精通することができます。そうすればストレスなく診療することができるので、外来の回転も良くなります。自分が高いレベルの診療をできていると思えると、気持ちの余裕にもつながります。これらのことは診察される人にとってもする人にとっても大きなメリットになります。

また、病院にとっても、専門外来で地域を超えて患者さんが紹介されてくるのは、決して悪いことではないはずです。専門性を極めて専門外来を持つことは、特に長時間病院にいることができず、夜の緊急に対応しづらいことで肩身の狭い思いをしがちな女性医師などにとっては自分の生き残り戦略にもなり得ます。


何かを得ると言うことは、別の何かを捨てると言うこと

このように、専門外来をすると良いこともたくさんありますが、ただ、特定の分野の勉強をすると言うことは、別の分野にまでは手が回らなくなることを意味します。ある程度は、「何かを得るためには、別の何かを捨てる」覚悟は必要です。

それでも、自分の専門性を活かしてやっていきたいと少しでも思っている方は、専門外来にトライしてみるのはいかがでしょうか。




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