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新宿L/R ~フェイクの中で(6)

 和雪の手はグラスを包み、磨き、背面の棚に戻すまでの一連の作業を終えたところだ。
 「好きだけど、しのぶちゃんみたいな子に会っちゃうとよくわかんなくなるなあ」
 「そういうことじゃなくて」
 しのぶが話すすぐ横で、和雪はシンクの下から灰皿を出し、慣れた手つきでタバコに火をつけて深く息を天井へ向かって吹きつけた。
 「ああ、わかるよ、言いたいこと。だったらさ、しのぶちゃんは隆文のこと好きなのか教えてよ。先に」
 しのぶは短くため息をつき、カウンターに両腕を投げ出した。祈るような格好で両手の指を組み、視線を床に落とす。
 「それは、わかるでしょ?和雪くんが思ってることが答え。私が何言ったって、きみはそれを信じないことぐらい、わかってるから、私」
 和雪は片手をズボンのポケットに突っ込んだまま、もう一方の手をカウンターに置いた。ぱきんと割れた爪がその短さをさらけ出してしまっている指がそばにある。男嫌いか、和雪がつぶやいて、しのぶの爪に和雪の手が触れた。
 

 まだフロアでは音が鳴り響いている。終わりの来ないフレーズの繰り返しと静かだが激しい重低音がしのぶの耳にとにかくまとわりつく。たまに客がDJをはやし立てる叫び声が聞こえる。そろそろウタイが出てくる時間だ。熱気がドアを隔てていても伝わってくる。フロアでは隆文が踊りながら待っているだろう。しのぶはまだここにいたいと思う。和雪がかちゃかちゃとまるで曲を演奏するようにグラスを鳴らしながら酒をつくるカウンターの隅っこの席に。目の前には何人もの客が通り過ぎていくのが見える。今日は特別混んでいる。新宿L/Rに来るときはいつも混んでいるが、今日はキャパシティを越えているように思える。

 しのぶはカウンターに両腕を組んで枕をつくり、その上に顔を突っ伏した。目を閉じると音だけの世界がしのぶを圧倒する。DJが生み出す音もあるが、それだけではなかった、人の話し声、会話の断片、グラスがカウンターにぶつかる音、和雪がオーダーを客にたずねる声、隆文に似た声、自分の心臓の音。どうして、なんでなの。目をつぶっていると、頭の中で言葉が強制的に飛び交う。なんで、そんなふうにするの。女は体と心の両方を解放する。男はそうじゃない。なんでそんなふうにするの・・・・・・?

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