なぜ僕がこうなったのかについての2、3の理由(10)
最初はサークル新歓のあと新宿のオカマバーに連れて行かれたときだ。酒を大量に摂取した。僕は、なぜだかのどが渇いてしようがなかった。一次会の焼肉屋でもかなり飲んではいた。にんにくの息をたっぷり吐きながら入店したら、入り口で出迎えてくれたおかまの人に、あらあ、あなた顔が赤おにみたいにまっかっか、と肩と尻をかたく握られながら、冷たいおしぼりで頬をいやというほどごしごしこすられ、同じおかまにつきそわれてソファに押し込められた。Pはいかにもなれた振る舞いでメニューを指差し、注文あったら言ってね、と連れに気をくばってくれる。
数分後にはテーブルにずらっとビールのピッチャーとコップとチューハイグラスが並べられた。フロア前方には狭いお立ち台があり、カラオケに興じる客とおかまが群がる。ひとしきり曲が終わると、おかま数人によるダンスが始まった。なまめかしい曲の調べに僕は腹の底がうずうずした。札をはさんだ割り箸が宙を舞う。それも終わると、僕たちのテーブルにおかまが3人くらいやって来て、くだらない話をたくさんしてくれる。Pはとなりにすわったおかまの偽乳をもんで、ももからひざをさすって、満面にだらしない笑みをたたえている。それ見せられてもなあ、と苦々しい気分でPを眺めていたら、こめかみのあたりがかぁっと熱くなり、急なのどの渇きを覚えて、僕はテーブルに並んだ酒をかたっぱしから飲み干し始めた。
まず自分のチューハイを飲み干し、ビールをコップに手酌で注ぐ、飲む、注ぐ、飲む。それから話に夢中になっている他の人のチューハイグラスが汗をかいてぬるくなってるのを見てそれを飲んでやり、いかくんせいを食べ、他のだれかのチューハイを取ろうと手を伸ばしたところに、Pに手首をつかまれて、お前大丈夫か、と心配されたのも気にせず、次の酒を注文した。のどが渇いていて、飲んでも飲んでも、潤った気がしてこない。飲めば飲むほど焼かれていく感じがして、酒を取る手が止まらない。大丈夫ゥ、とおかまさんが僕の顔をのぞきこんで、それにうん、と答えてすぐに、目の前に悪寒が走り、僕は潰れた。翌朝、Pの部屋で目が覚めた。氷水がなみなみと入ったマグカップを僕に手渡しながらPは言った。
「どうだ、気分は?悪くないだろう」
この人との付き合いは長くなるだろうと、そのとき予感したのを今も覚えている。
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