いちごみるく(6)
毎日の時間の流れを感じなくて、平坦な道が続くように見えて、特に目標もなく、いや、ないわけじゃないけど、どんな人間になりたいとか、達成したいこととか、目に見えるかたちで人に言えるようなものがない、っていうのかな、誇れることがないっていうのかな。働いてうちへ帰ってきたら妙に疲れてて、すぐに寝る時間になって、気がついたら次の朝になってて、その繰り返し。休みの日は遊びに行くけど、友達とかいるけれどそんなに多くはいないから暇な時間も多いし、テレビ観たり、眠ったりしていることが多い。病気もあまりしないし、緊張感とか、どうしてもと思うこととかが、ない。
このままじゃいけない、って思うことはある。このまま歳ばかりとっていくだけ。でも、わたしに何ができるっていうんだろう。何か見つけてやってみる、がんばってみる、ってことがわたしにとっては遠い場所にあるように思える。結局、毎日わたしは些細なことにほんのりとむかつき、しばらくして忘れ、自分にむかつき、忘れ、遊び、働き、自分の中にある限界に目を向けないようにして、また同じ時間がへたへたと過ぎるのみ。
わたしの髪の毛はピンクとオレンジが混ざったような色をしている。美容院で染めるとき、美容師さんを困らせてしまった記憶がある。たしか「ショッキング・ピンクとオレンジ・ジョーゼットを混ぜたような色で」と注文したと思うけど、注文の色のせいじゃなくて、髪がものすごく傷んでいたことを美容師さんは気にしていた。
「キューティクルがはげまくってますね」
担当美容師のIくんは、しらうおのようなきれいな指で、わたしの髪をゆるくつまみながらそう言った。
「そうですか、でも、染めたらいい色出るでしょ」
「染めたら、かなり、傷むと思いますが、かまいませんか?」
わたしの髪の毛は肩くらいのストレートボブだけど、パーマ、ストレートパーマ、カラーリングを繰り返してるのでしつけ糸みたいにギシギシになって傷んでいた。でもわたしにとっては、髪型を変えるのは傷むとか傷まないとかの問題じゃなかった。Iくんはお客様の髪の健康とスタイルの志向、この板ばさみに苦しみながらわたしの髪を染めてくれた。