いちごみるく(7)
ヘアスタイルはその人の「世間への態度」みたいなものを強く象徴することもあるのじゃないかと思う。たとえば仕事は髪型の自由をしばる。わたしは夕方から、割烹料理屋の酌婦のバイトをしているけど、(バイトの求人広告には「お座敷係」とあったが、ある時お客さんから「お前は何だ?アレか、酌婦だな、シャクフ」と言われ、そのいさぎよい響きが気に入ったから、それ以来「酌婦」と自称することにしている)そのときは黒いおかっぱのカツラをかぶって出る。カツラからピンクの髪が時々はみ出していたりすると、お客さんから「何これ?」と言われたりする。おかみさんに怒られたりもする、「アンタ、その色は何」、先輩のおねえさん達にからかわれたりもする、「すごく似合ってるよぉ」、何かと人の目につくらしい。
酌婦のバイトはわたしに合っているようだ。その証拠に二年近くも続いている。バイト生活に入る前は美容師をしていた。美容師の専門学校を出てから、青山一丁目にある美容室に就職した。その店はインテリアがかっこ良かった。コンクリートが打ち放しで、太いパイプが天井を走り、壁は塗り直しもせずにところどころ落書きがあったりした。けっこう流行りの店だったけど、お客さんの髪を切るまでにみっちり四年間は見習いをしなきゃならないことに、知ってはいたけど今さらながらに嫌気がさして辞めてしまった。またやりたくなったらやればいいや、若いんだし、それに他の仕事もしてみたいし、なんて気分だったと思う。当時のことはもうだいぶ忘れてしまったけど、わたしがアシスタントとしてついていたスタイリストのYさんを好きになってしまったことも、辞めたくなった理由だったと記憶している。