いちごみるく(2)
午前四時、「モモチ」はラストスパートに入った。天井からスモークが垂れ込み、DJの肩がきつく揺れ、ビートはさらに速まった。わたしたちは抜けるかというほど床を踏み鳴らした。一丸となって戦う兵士のごとく、フロアの客は流れる時間と格闘した。このまま、いつまでも鳴り止まないでね、お願いだから、無表情とは裏腹に放つ祈りのリフレイン、繰り返される曲のフレーズが、なぜか「コレマデヨ、コレマデヨ」と空耳する。妖しく光るレーザーは緑の扇のかたちをし、トロール漁船の網となり、跳ね飛ぶ客をからめとる。曲のボルテージが高まるうちに、なかなか得ることのできない感覚が、汗腺を伝って皮膚に広がり、鳥肌となって現れた。口笛であおる客、イスに座ってくつろぐ客、スピーカーの真ん前で一心不乱に踊る客、みなそれぞれ楽しむためにここにいる。どの客も、流れる曲に包まれて、寒天質の膜の中できしむカエルの卵となって、孵化する時期を拒んでいる。
オレンジ色の毛束を見つけた。気づかれないよう背後に回り、ぐっとしたたかつかんでやった。友達は首だけ曲げてわたしのほうを振り返り、ニヤリとウインクしただけで踊る勢いをゆるめようとはしない。どれだけ踊れば気が済むの?愚問とわかっていながらも、思わず聞きたくなるときがある。けれどもわたしも友達と同じだ。わたしは友達を三人称で何と呼べばいいのか知らない。話す言葉は女の子、外見は男の子、彼と言うべきか。その友達が不意に耳元でささやいた。
「もう終わりだね。あと一分で曲は止む」
わたしは辺りを見回して、フロア後ろ正面にあるブースの人影が、手のひらを広げてカウントダウンしているのを見つけた。あ、ほんとうに、最後なの。パン!と軽い破裂音とともに銀の紙吹雪が乱れ飛び、照明がいっぺんに点灯した。ミラーボールは回っていない。DJは万歳三唱。曲はもはや流れずに、店内にいる全員が拍手喝采を送っている。わたしは友達と肩を組み、背中を叩き合って今夜を締めくくった。ラストパーティーは無事フィナーレを迎えた。
「モモチ」と同様、わたし自身もつい数時間前、バイト先のカジノバーでラストを迎えたばかりだった。