なぜ僕がこうなったのかについての2、3の理由(20)
東京都心から始まり、環八、関越、と追ってページがめくられる。時折、ご当地名産の写真入り紹介コラムなどあると、じっくりと読んでふうん、と感心しては僕に読み聞かせてくれるのである。
ねえ、BBって知ってる?似てるって言われない?と山梨県名物「ほうとう」の作り方説明が終わったときに言ってみたら、なに、わたしの話きいてないじゃん、とふくれっつらをされたが構わない。
「こんど雑誌みせてあげるよ、似てるから、目がね、そっくりなんだ。そうだ、BBって呼ぼう、これから。BBって呼ぶよ、べべ」
彼女のほうこそ僕の話を聞いているのかいないのかわからない。CDにあわせて鼻歌を歌いながら、ずっと地図に目を落としている。うなづいたような、いないような。
「でも、そのBBに似てるからって、わたしなにも得してないよ。わたしはグラビアアイドルになりたいわけではないし、第一なれないし。バイトして、うちかえって、ごはん食べて。BBが必要じゃない生活してるもん」
でもそれで僕に出会えたじゃん、そう言うと、それって得なのかなあ、と大きく笑いながらBBが答える。僕もつられて弱々しく笑ったら、どこか誤魔化されたような気分になった。だけど、それでも楽しくなって、僕はうれしくなった。
「あ」
BBは窓の外を指差して声をもらした。僕はちらっとよそ見をして、虹がかかっているのを認めた。BBは虹を見るのは久しぶりだといい、色の7つを数えはじめた。僕は子供のころ夏休みによく見た虹のことを思い出していた。いつも夕方だったと思う。遊びにでかけた妹を近所の家にむかえに行ったとき。雨なのに泳がされた夏休みプール教室の帰り。むせかえるような夕飯のにおいが家々から流れてくる時刻。
「・・・・・・オレンジ、青。7色もないんだね、実際は。きょうはこれが見られたから満足した。うん、気持ちいいドライブだね」
厚かった雨雲は切れ目を見せ始めて、車の速さに追いつけずに左後方へ勢いよく遠ざかっていく。前方には山に傾きかけた陽が長い光をはなって、車の中の僕たちの顔を照らしている。次のインターチェンジで引き返せば、今日じゅうに帰ることができる。遊園地からはほど遠い場所だけど、降りていいかな、とBBに問い、もう遊園地へは行きたくないし、と彼女は少しだけ頬をふくらませた。高速を降りてしばらく田んぼに囲まれた土地を走り、ふと彼女の横顔を見た。
まっすぐに窓の外を見る目はどこまでも透きとおり、まばたきするたびに、マスカラが含まれたまつげがぴつぴつと音を立てている。彼女とこのまま、いつまでもドライブしていたいと無性に思った。
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