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ショートショート「立方体の思い出」

たらはかにさんの「毎週ショートショートnote」に参加しました。

今回のお題は「立方体の思い出」

立方体の思い出


学生時代、僕は学習塾でアルバイトをしていた。数学の先生だ。

正社員のアリサ先生は優しい人だった。
彼女はある日、立方体の模型を使った僕の模擬授業を見た後、その模型を手に取り言った。
「同じ長さの辺、同じ面積の面、すべてが同じって安心するよ。完璧な形だなって。わたし、この中に入ってしまいたい」
彼女は泣きながら言う。
つき合っていた人と酷い別れ方をしたのだと。
「彼とわたし、趣味も考え方も同じで完璧な関係だと思ってた、なのに…」

僕はアリサ先生のために修行して、立方体の中に移動させる魔法を身につけた。

そしてついに、僕は魔法を使った。
だが失敗した。
アリサ先生ではなく、「立方体の上を動く点P」が中に入ってしまった。

どうしよう。問題作り変えなきゃ。
動点Pは立方体の「中」を動き続けたが、やがて「上」に戻ってくれて僕はほっとした。

アリサ先生は、別の人と結婚した。
「完璧な関係じゃないけど幸せ」
彼女は笑った。

それが僕の、立方体の思い出。

*****終わり*****

読んでくださってありがとうございました。

数学の「動点P」の問題には、本当に苦労させられました…。