物語「サンタさんたち準備中」
私の住むところでも、ついに雪が積もりました。冬ですね。
先週「トナカイさんたち準備中」というお話を投稿しましたが、トナカイさんたちが準備中ならサンタさんたちだって準備してるだろう、ってことでこのお話を書きました。
結構長い…8000字弱なのですが、一気に載せます。よかったら読んでくださいね。
「サンタさんたち準備中」
第1章
ときどきテツくんは泣く。わたしに気づかれないように声は出さないようにしているのはわかる。でも泣いているんだよね。
きっと誰かのために泣いてるんだよね。
その誰かとは、わたしには見えない誰かさん。
きっとテツくんは、その誰かの役に立ちたいのだ。
誰かが誰のことかなんて、わからないけど。
わからないけど、わたしはそんなテツくんの役に立ちたいのだ。
などということは、照れ臭いのでなかなか口に出して言えないのだけれどね。
12月はじめ。
11月は黄色い葉がとても綺麗だった並木道、風に乗ってわたしの頬を次々となぐっていた黄色い葉が、今日はついに遠いどこかへ去っていったのだ。
枝だけになった木の下で、テツくんはとんでもないことを口走ったのだ。
「今年は、仕事でクリスマスイブには会えないんだ。ごめんね」
いやこれはとくにとんでもないことではない。
イブに仕事になる人間は山ほどいる。夜遅くまでかかってしまう人もいるだろう。
だからわたしも
「そうなんだ。仕方ないよ。お仕事がんばってね」
と言った。わたしのことで、テツくんが仕事に集中できなくなったら大変だ。
テツくんは、今年の6月に転職したばかりで、まだ一年もその会社で働いていない。
彼は転職してから毎日とても忙しそうで、今日は寒いので着膨れているはずなのに、なんだかそれでも全身からふかふかしたところがなくなったように見える。
テツくんから聞いた話によると確か、彼が入った会社はおもちゃの製造と販売の会社で、彼は外回りをする営業だったはずだ。
いま彼が、少し元気がないように見えることは、心配だった。
なぜなら、彼が前職を辞めた理由というのが…。
「あのね、こんなこと言って信じられないかもしれないけど、あなたには本当のことを言いたいんた。僕はあなたのことを好きだから」
わたしの「お仕事がんばってね」の言葉からしばらく沈黙していたテツくんが、とつぜんこう言った。
そしてついに「とんでもないこと」を言ったのだ。
「僕は、サンタクロースたちの会社に転職したんだ」
「え?そういうサービスをする会社?サンタの格好をして営業するとか」
「違うんだ。本当の、サンタクロースなんだ」
わたしはテツくんをじっと見つめた。彼が何を言いたいのかわからなかったのだ。
「僕が前の会社を辞めてから、毎日家の周りを散歩してた。気が沈んだときも外の風に当たったら、少しほっとしたんだ。そしたら、ある日ね、誰もいない道の真ん中に鏡が置いてあってね。その中から、サンタクロースの服を着た人が手招きしていたんだ。初夏なのに、サンタクロースの服を着てたんだよね」
ばりん、と足元で音がした。
泥とゴミで黒くなった枯れ葉ほんの数枚が、わたしの靴を見上げていた。
わたしたちのことを忘れないでね、と彼ら枯れ葉は言っているようだった。
「信じられないだろう?」
と、テツくんが自分で自分を笑うような笑顔を見せた。
そんな笑顔は良くないものだ。
「信じるわ。大丈夫」
でも、わたしはひとりで知らない町で迷子になった気持ちになっていた。
「ありがとう」
と、テツくんは言った。
そして続けた。
「僕は鏡の中に入った。そしたら、こちらとそっくりな町があった。僕はこちらとそっくりな道に立っていた。
でも、道のつきあたりにこちらには存在しない、大きな大きなビルと広い敷地があったんだ。
そこがサンタクロース本社だったんだよ。
その僕を招いてくれた先輩サンタさんが言うにはね、サンタクロースはないしょの存在だからね、こうやって鏡の中に隠されているんだよって。
いまはサンタの人材も不足してるので、若い人に入ってほしいと。僕は嬉しくなったよ。だって子どもたちに喜んでもらえる、素晴らしい仕事じゃないか。そして僕はそのサンタクロース会社に入ったんだ。それから訓練の連続さ」
わたしは彼の言ったことについて、懸命に自分の頭の横についたハンドルをまわし、脳みそをまわす。
頭のサビを振り落とすのだ。
だがわたしの頭はにはあまりにも急激な負荷がかかり、軋む音を立てている。これはまずい。
頭のハンドルをしっかりにぎりながら、わたしは
「そうなんだね」
と、声をしぼりだした。
「24日は本番だから、子どもたちにプレゼントを運ぶ本番だから、会えないんだ。ごめんね」
「うん、わかったわ」
なるべく元気に返事しなさい、ぐるぐるまわる頭の中からそう指令が来たので、わたしは忠実に従った。
テツくんの目は、奥からいつもと違う光を発しているように見えた、
この人、本当に自分がサンタクロース会社に就職したと信じているんだ。
わたしは、どうなの?
疑ってる?
いや、信じてる。
テツくんの声で語られたことは今まで聞いたことのない言葉の重ね方だったので、戸惑ったことは戸惑ったが、嘘だと思っているわけではない。
彼は嘘をつく人間じゃない。
いつもまっすぐに歩く人間だ。
だからこそ、ひどい会社でひどい扱いをうけてしまうのだ。
彼が前の会社をやめたのは、彼のまっすぐな体と心がその扱いに耐えられなくなったことが原因だった。
テツくんは、いま、本当に自分がサンタクロースの会社に就職したと信じているんだ。
しかしそのサンタクロース会社とやらが、テツくんを騙そうとしている可能性はあるかもしれない。
もしもなにか、危険な新興宗教かなにかで。
「やっぱり信じてないのかな」
彼の言葉が悲しそうに響いた。
「そんなことないよ」
わたしは力をこめて否定した。
「いやその顔はわかる。とても困ってる顔だよ」
「そんなことないよ」
とわたしは再び否定した。
「僕は、やはり役に立たないのかな」
「そんなこと…」
わたしは言葉の途中で、あれ?と思った。
テツくんの服の胸のあたりから、直径5センチくらいの黒いしみが見えるのだ。
彼は今日、白いニットを着ている。その黒いしみは、いまわたしの視界に突然飛び込んできたのだ。
そんなしみ、今まであった?
「僕は君に信じてもらえないんだ」
その言葉とともに、しみがふくらんできたように見える。
見える、じゃない。ふくらんできている。
しみはニットの内側にあるのかな。ニットの内側から、自らを押し出しているように見える。
どうなっているのこれ。
わたしは思わず声に出した。
「へんだよ、へんだよテツくん、それ、そのしみ」
だが、テツくんはちら、と下を向いてしみを見ただけで、とくだん驚いた様子は見せず、さらに
「僕のからだがプレゼントを作ってる」
ついにへんなことを言い出したのだ。
「どうしたの?違うよ。これはあなたの作ったものではない」
わたしがそのしみに手を伸ばそうとしたとき、
しゃらん。
空から音がして、わたしは上を見た。
しゃら、しゃら、しゃら。
これは鈴の音?
トナカイたちの引くそりは、徐々に大きくなってきた。こちらに向かってきている。
第2章
トナカイ?しゃら?しゃら?
わたしの頭の横についたハンドルは、さらに勢いよくまわされていた。
脳みそを回転させなくちゃ。
理解しなくては、この事態を理解しなくては、と。
待って、頭のハンドルをまわしているのは、本当にわたしなの?どこかで誰かが、わたしのハンドルを笑いながらまわしてない?
混乱させようとしてない?
鏡の中の国から。
でも、いま空から降りてくるあのツノを持つ動物は、トナカイでなければなに?
いや、わたしはトナカイの姿なんて実物を見たことないでしょう?
あれ、シカじゃないの?シカだったら、奈良で見たことあるし。
いやいや待てよ。
ハンドルは頭から外れそうな勢いだった。
奈良の公園からシカがやってきたのか?そして空を飛んでここまで来たのか?
しゃらしゃらさんたちは、ついにわたしの目の前に降り立った。
音は、彼らの首につけられた鈴から発せられていたのだ。
「彼らは、トナカイさんなの?」
わたしが聞くと、テツくんはうなずいた。
まあ、そりゃトナカイだよね。
”今までのテツくんの話の方向性から言って、シカじゃねえだろ現実見ろ”
と、トナカイを映すわたしの目がささやいた。
「ごめんね、僕がサンタクロースである証拠を見せたかったんだ」
テツくんは悲しげに言った。
彼の胸に、黒いしみはまだある。まだあるどころか、かなりふくらんでいる。
いまやしみは、まるでりんごのような大きさだ。
「そして、僕自身の訓練のために呼んだんだよ」
「訓練?」
「まだ、トナカイたちと息があわなくて、離陸と着陸がうまくいかないんだ。先輩たちはあまりよく教えてくれない。これくらいできないやつはダメなやつだ、ぐらいしか言わない。だから、自主訓練するんだ」
いや、ちゃんと教えろよ先輩。
トナカイたちと息があわなければ、子どもたちにプレゼントを渡せなくなるだろう。
新人教育がなってない会社だな、とわたしは眉をひそめた。
テツくんは並木道をぐるっと見渡して言った。
「この並木道が広さとしてちょうど良いし、普段から人通りも少ないし、さらに人よけの魔法が効きやすい場所なんだ。だから、最近トナカイとの訓練に使わせてもらってる」
ああ、人がわたしたち以外にいないのはそういうことか。
「人よけの魔法、習ったけど、使うととても疲れる。でも本社の敷地を使わせてもらって訓練すると、1日につき数千円かかっちゃうから」
テツくんはそんなことを言い出した。
いや、待ってそれ。待たんか。
「社員から、しかも本番のために自主練やってるのに、カネとるの?」
わたしは驚いて叫んでしまった。
ねえ、なんかその会社ちょっとおかしくない?
トナカイさんは2頭。
かれらのよっつの目は、なんだかわたしを責めるようだった。この人は僕らを信じてない、という目だ。
いや、そんなことはないよ。シカとか言っちゃったりしてちょっと心が逃げかけたけど、そんなことはない。
トナカイたちは、今度はテツくんのほうを見た。あまり嬉しそうではない。
そして、ふう、と息をついた。
まるでため息のようだ。
「僕はトナカイたちにも信じてもらえてないんだ。うまく動かすことができるとは思われてないみたいで」
「でもさ、テツくん、頑張っているじゃない」
思わずわたしは言った。
「テツくん、あなたはいつでも頑張っているよ」
「でも、認められないんだ、だれにも。僕は、子どもたちにも認められないのかな」
「そんなことないよ」
とわたしは必死に答えた。でも、なんだかテツくんの耳には入ってないように見える。
どうしよう。
「いや、認められないね」
また別の声がした。見知らぬ男の声だ。
頼むから、もうややこしい存在が増えないでほしい。
そう思いながら振り向くと、わたしたちのうしろ、トナカイたちとは反対側に、赤いサンタの帽子を被った男が立っていた。
でも帽子の下、首から下の上半身と下半身は普通の、いや普通よりは高そうな指ざわりがうっとりしそうな生地のスーツを着ている。
背は高く、だが肩幅はかなり広い。筋トレが好きそうなからだつきで、サンタの帽子があまりにも似合わない。
「帽子だけサンタだ」
と、わたしは言った。
「下もサンタ服だと、イブでもないのに目立って仕方がない」
と、彼は言った。
「帽子だけでも目立っているけど」
「うむ、これが俺のプライドなんだよ、サンタとしての。そしてこの本物のサンタの帽子からは、ちゃんと”光のサンタのちから”が発せられているのだよ。なぜなら、俺が”光のサンタクロース”だからだ。なあ、ニセモノサンタくん」
わたしは、はっ、としてテツくんを振り返った。
テツくんは、サンタ帽の男をじいっと見て、いや、彼は目を逸らせないのかもしれない。
体が固まっているようだった。
「ニセモノじゃないわよ」
と、わたしが叫んだ。
「テツくんはね、子どもたちのために頑張っているの。ひどいこと言わないで」
「信じるのか?」
「当たり前よ」
というか、こちらのほうがサンタらしくない。なぜならサンタ帽の男の腹は平らだ。サンタクロースというものは、だいたいにおいて腹が出ていると思う。
体型違いすぎだよ。まあテツくんの腹も出てないけど。
だが、サンタ帽の男はさらに言った。
「そいつはニセモノだ。タチの悪い、”闇のサンタクロース一味”だ」
「闇のサンタクロース?はあ?」
わたしは顎が外れそうなほど、大きい口を開けてしまった。
「わかっているのだろう、君には」
サンタ帽の男は、テツくんに向かってえらそうに言った。わたしはその視線をぶちぎろうとジャンプして
「あんた、わたしの言うこと聞きなさいよ。なにが闇のサンタクロースよ。この人はね、純粋な人なの。闇とかなんとか、そんなどす黒いことなんて」
「君は、鏡の向こうへ行っただろう」
サンタ帽の男はわたしの言葉をさえぎってテツくんに言葉を放った。
テツくんは何も答えられなかった。
「あんたも聞くがいいよ」
と、サンタ帽の男は、”視界の片隅に入れてやって感謝しろよ”、と言う目でわたしを見た。
「俺たちは光のサンタクロースだ。だが、鏡の向こうに闇のサンタクロースたちがいる。光のサンタクロースが生まれるときに、あいつらは鏡の向こうで生まれるのだ」
テツくんの胸の黒いしみが、どんどん盛り上がってきていた。もうニットを突き破りそうだ。
「そこから闇が生まれようとしている」
と、サンタ帽の男がテツくんの黒いしみを指差して言った。
なにそれ、なんなの。
わたしはサンタ帽の男など無視して、テツくんへと叫んだ。
「テツくん、大丈夫?」
「くるしい…に、にげろ」
「逃げないよ」
「だめだ、僕のそばにいると危険だ。君を傷つけたくないんだ」
「よくわからないかっこつけかたを、しないで」
と、わたしは彼の言葉をぶん殴った。
「僕のことはいいから逃げろみたいなねえ、そんな考え方は1990年代に終わってるのよ」
「つまり?あんたはどうしたいんだ?逃げないでどうするんだ?」
と、サンタ帽の男はわたしに静かに問いかけた。
「助けるのよ。決まってるじゃない。ちょっと、あなた、手伝ってよあなた、私の知らないことを知ってるでしょう?お願い、お願い」
最後は懇願してしまった。なんてわたしは情けないんだ。
でもテツくんが、ついに膝をついてしまったんだ。
「ごめんね、ごめん」
と、テツくんは言った。
サンタ帽の男は動かない。
ははーん、つまり口先だけの男ね。人が料理している最中に横から「ああ、ちょっとコショウ入れすぎたんじゃない?」とか言うだけのタイプだなきっと。
そんなふうに心で罵倒すると、わたしも膝をついてテツくんをぎゅっと抱きしめた。
どうしたら良いかわからないけれど、できることはこれしかない。
もりあがったしみを、わたしのからだに押し付けた。
わたしがこいつをつぶすことができれば。
できなくても、テツくんのからだから出てくることだけは阻止しなくては。
とつぜん、なんの衝撃もなく、音もなく、テツくんのしみが、急速にしぼみはじめた。
驚いてふりむくと、わたしたちを見ていたサンタ帽の男が空中に手を伸ばしている。
何かがそこから生まれている。
わたしはそう感じた。
テツくんのしみは、黒が、どんどん薄くなってゆく。
これはまるで。
まるで、新発売の染み抜き洗剤につけたみたいだな、と思った。
薄くなったしみは、やがて完全に消えた。
のこったのは、ニットの白だけ。
トナカイたちは、そのまま立っている。だが、さきほどまでの悲しげな顔はなくなっていた。いまは、秋の終わりと冬のはじまりのさかい目ついて、深く考えているような表情だった。
テツくんはふうっと息をつくと、わたし背中に手をまわして、ささやくように言った。
「大丈夫?」
「わたしは最初から最後まで大丈夫だよ。テツくんこそ」
「僕は大丈夫。楽になった」
「よかった」
「ごめん、その人の言う通りなんだ」
と、テツくんは言った。
「え?」
「僕は、偽サンタになっていたよ。それも本当にタチの悪い、”闇のサンタクロース一味”になっていた、知らないうちに。僕はいま理解したんだ。ほんとうの、光のサンタクロースの力をくらってね、知識が流れ込んできた」
「光のサンタクロース?」
わたしはテツくんを支えたまま、サンタ帽の男のほうを見た。
まさか、この筋トレ無礼男が、光のサンタクロース?
サンタ帽の男は
「うむ。やはり君には素質がある」
とうなずいた。
「申し訳ありません、助けてくださってありがとうございました」
わたしとともに立ち上がると、テツくんはサンタ帽の男に頭を下げた。
「君は何故、闇の一味になっていたかわかるかい?」
「はい」
と、テツくんはうなずいた。
「鏡の先に、闇のサンタクロースの世界があって、そこで僕は知らぬまま、闇のサンタクロースになるための修行をさせられていたんです」
「闇のサンタクロースってどういうこと?なにをするの?」
と、わたしは聞いた。
「光のサンタクロースたちに敵対するもの」
と、テツくんは静かに言った。
「子どもたちにひどいものをプレゼントする悪い奴らなんだ。クリスマスイブの夜、子どもたちが望まないものを持ち運び、子どもたちの口の中にそれらを放り込む。そしたら、ほんとうにひどいことになってしまうんだ。僕はそいつらの仲間になっていた」
「あいつらは狡猾さ」
と、サンタ帽の男は言った。
「君を誘い出して、君の胸に”闇のサンタクロースのたまご”を埋め込んだのだな。闇のたまごは鏡の向こうに無数にある。
光のサンタクロースが生まれたときに、闇のたまごもかえるんだ。そういうしくみになっている。
そして、闇はつねに光に打ち砕かれるものだ。
あいつらは今回、その光そのものを生まれないようにしたんだ。
つまり、君の心に闇のたまごを埋め込んで、生まれるべき光を、まだ弱々しい光のたまごを、闇に染めようとしたのだ。それがあの黒いしみだよ。あのままなら、君は身も心も闇のサンタクロースになってしまうところだった」
なんかすごいことを言っているのはわかった。内容をすべて理解したとは言えないけど、つまり、悪い奴らがテツくんを利用しようとしたのね。そこが重要なポイントだな。
「トナカイも、君の中の”闇のサンタクロースのたまご”が操っていた、もともとは光のトナカイになるべきトナカイだった」
と、サンタ帽の男のは言った。そして、
「俺はただ通路を作っただけだ。君がそこにちからを注ぎこんだ。しみを消したのは君のちからだよ。君は乗り越えた。闇を払ったのだ」
その言葉に、テツくんはゆっくりと首をふった。
「僕だけでない、彼女が手伝ってくれたんです。僕と彼女が作りだしたちからだと思います」
「へ?わたし?」
なんか、いきなり「犯人は意外なところにいます、それはあなただ」と名探偵に言われたような心地だった。いや犯人じゃないって。
「光のサンタクロースがかかげる光のプレゼントのみが、闇のサンタクロース一味を追い払うということだ」
と、サンタ帽の男はにやっと笑い、言った。
「君らの作り上げたプレゼントか」
そして、彼はテツくんに語りかける。
「本当のサンタクロースになるかい?」
「え?」
「さきほども言ったが、君には素質がある。そしてサンタクロースは人手不足だ。だが、新人だからな、今年は君は俺の助手として俺の隣に乗ってもらう。いきなり新人ひとりぼっちにして仕事をおしつけるわけがない」
おお、こちらはまともなサンタクロース会社のようだ。
「それにしても、これから特訓しなければならないな」
と、サンタ帽の男は言った。
「本社の敷地で特訓だ。大丈夫、タダで使えるからな、光のほうは」
「僕、ほんとにサンタになれますか?」
と、テツくんは聞いた。
「聞くなよ。君が考えろ」
サンタ帽の男の声は、強く響いた。
テツくんは、口をきゅっと結んで、そして答えた。
「サンタクロースになります」
その言葉を聞いたサンタ帽の男は、テツくんに告げる。
「では覚えておくがいい。この瞬間、鏡の向こうにあの闇のしみが舞い降りているだろう。光のサンタクロースが生まれ、闇のサンタクロースも、いま誕生したのだよ。覚悟を持ちなさい。わかったね」
「はい」
テツくんは力強く言った。
テツくんかっこいいなあ、と心から思った。この人の恋人でわたしは幸せだ。
ときどき、テツくんは泣いていた。
わたしは知ってる。
この人は、誰かのためにずっと泣いていたのだ。
誰かの役に立ちたくて。
自分には役立つちからがないと思っていて。
誰かが誰のことかなんてわからないけど。テツくんにだって、わからなかったのかもしれないけど。
わたし、あなたが泣いていたこと、知ってる。
「ごめんね、クリスマスイブ、やはり一緒に過ごせないことになったね」
と、テツくんが言った。
わたしはふふん、と笑って言った。
「なによ、恋人たちがクリスマスイブに一緒に過ごすなんて、1990年代に終わった考え方よ。26日くらいがちょうど良いのよ。26日にケーキ食べようよ、一緒に」
テツくんはわたしをぎゅうっと抱きしめた。
「ありがとう」
とわたしは言った。
「26日に有給ね、わかった」
と、サンタ帽の男がうなずいた。
クリスマスの夜、わたしは空を見て祈ろう。
君が、世界中の子どもたちに幸せを届けられますように。
となりの先輩に、あまりこき使われませんように。
*****終わり*****
読んでくださってありがとうございました。
実は前回の「トナカイさんたち準備中」と同じ世界観です。
アルファポリスさんにも投稿してます。
今回のカバーイラストはこんな感じです。
「Present for you」
プレゼントボックスに入ってるサンタさん、という風に描いたつもりなのに「こたつ入ってるサンタさん」に見えて仕方ない。
それでは、素敵なクリスマスを!