「すし 㐂邑」木村康司さん、5月15日の答。
―クローズ―
今やミシュラン二つ星の「すし 㐂邑(きむら)」には、店主の木村康司さん曰く「どん底」の8年間がある。だから彼が「生きていればなんとでもなる」と言うのなら、それは綺麗ごとでなく、経験を伴う本心だ。何度でもゼロから始められるという自信を持って命を守る、クローズという答。
平等に、来週の分だけ、早いもの勝ち
僕、もうすぐ50歳になるんですよ。長年かけて自分が蓄えてきた知識や技術を、そろそろみんなに分けていく歳じゃないかな、という思いで、数年前から海外でお鮨を握る機会も増やしています。
今年(2020年)1月のマドリード・フュージョンもその一つで、熟成をテーマにデモンストレーションを。しがらみがない分、海外のほうが自由に表現できるとも思っています。
そういう海外の知人たちから、コロナの情報が早い段階で入っていました。これは日本にも確実にくる、と個人的には危機感を持っていて、SNSで情報をシェアしていたんです。
「すし 㐂邑」はカウンター10席のお店です。その半数は海外のお客さん。アジア、ヨーロッパ、アメリカなどさまざまで、彼らの国が渡航制限になるにつれ、徐々にキャンセルが出始めました。
そこで3月10日(WHOによるパンデミック認定の前日)からは、海外枠をクローズして、日本のお客さんに開放しました。
うちの予約方法を説明すると、一般向けの予約サイトと、顧客向けのフェイスブックがあります。
常々、「半年先、1年先の予約を入れる」といった東京の予約の異常さを感じていたから。予約が取れなくなって、顧客が来られなくなるのは本末転倒。
また自分なら、暑くなってきたから酢の物が食べたいとか、気持ちで選べる期間の幅はせいぜい1週間。僕は、そんなふうに今、本当に食べたい人に食べてもらいたい。
だから国内枠なら平等に来週までの分だけ、早いもの勝ち。海外枠は旅行の計画もあると思うので、予約サイトで1カ月先まで。
何カ月も先まで予約で埋めてしまうと、自分の自由な時間がなくなるという理由もあります。産地など行きたい場所、会いたい人にも会えなくなる。
このシステムにしてから、フレキシブルにそういう時間が作れるようにもなりました。
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