空からの手紙 (1)
「 なんだかへこんだり、淋しい気持ちになった時にもさ、この空は好きな人と繋がっているんだなぁなんて思うと、嬉しい気持ちになるの 」
「 そうなんだ、君はそう感じるんだね。…僕は同じ空の下なのに、繋がっているその先の空の下で戦争があったり、貧しさに打ちのめされている子ども達がいるって事が苦しいんだ 」
サークルの合宿で、偶然一緒に見た空の色。海からの風を感じながら彼はポツンと言ったんだ。
「 僕は人々を幸せにする仕事がしたいんだ。誰かが喜んでくれる事が僕の幸せだから 」
同じサークルの彼はちょっと強面で近寄り難かった。でも、笑うと人懐っこくてリーダーシップがあって、そして歌が大好きで。良くみんなでカラオケに行っていたんだ。
当事流行っていたバンドの【 聖飢魔II 】を信仰していて「 お前も蝋人形にしてやる〜 」と歌えば指差された女の子達は「 キャァ〜 ! 」
そんな明るくてひょうきんな顔を持つ彼が、照れもせずに人を幸せにする仕事をしたいと言うなんて、あまりの意外性に息を飲んだ。
今思えば早くから寮生活で親元を離れた彼は、周りに馴染むため元々の明るい性格を必要以上に進化させて、それが彼の形容詞になっていったのかもしれない。
ほんとは淋しかったり、辛かったり、でもそれを言っても受け止めてくれる存在は遠く離れていて、気づかぬうちに感情をコントロールしていたんだね。
卒業とともに彼と会うことも無くなり、淡い想いを伝える事もできないまま時は流れていった。
私は結婚して母親になり、仕事の合間を縫って学校行事に参加したり、自治会の役員をしたり、小さい世界を大切に生きてきた。
彼はNPO法人で海外に学校を作るスタッフとして働いていると風の噂で聞いた。彼らしいな、夢が叶ったんだな。
忙しさの息抜きでFacebookを始めたのがそのころ。情報を集めるだけで、発信はしないと決めていた。新しいカフェを検索したり、好きなミュージシャンのページを見て、それだけで楽しかったもの。
そのうち仲が良かったサークルの仲間と繋がり、やりとりを始めてお互いの近況を話し合うようになった。当然、彼の話題も出て、海外で一緒になったスタッフのひとりと結婚したと知ったんだ。
やっぱり私とは住む世界が違ってたのね。言えずにいた好きだった想いがチョッピリ泣いた気がするよ。
ネットってどうしてこうお節介なんだろう。友達かも?って彼の名前が出てくるなんて。15年振りに見る彼のアイコンの写真は、いい色に日焼けした素敵な笑顔だった。