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おぼろげな記憶の、エリーマイラブ

 泣かしたこともある 冷たくしてもなお よりそう気持があればいいのさ

 俺にしてみりゃ これで最後のlady  エリーmy love so sweet


 歌で恋をしたことがある。カラオケが流行り始めたころのお話。廃車されたバスを改装したり、プレハブのカラオケボックスが所かまわず出来ていたバブル時代。同僚が歌う姿を見て、惹き込まれてしまった。

 曲名は【愛しのエリー】サザンオールスターズ。ドラマ【ふぞろいの林檎たち】の主題歌だ。(出演は、中井貴一さん、時任三郎さん、手塚理美さん、石原真理子さん、柳沢慎吾さん、中島唱子さんらが奏でる青春の始まりからの物語。)

 サザンの桑田さんのものまねが流行っていてね、同僚の彼も負けず劣らず(誰に?!)上手かったんだ。お茶目でね、笑い顔がキュートだったよ。

 数年後、またまた歌う姿に恋する私がいた。その人が歌う曲は【somebody’s night 】矢沢永吉。ちょっとクールな彼(別の同僚)は、曲が流れ出すと熱いマイクパフォーマンスでキレッキレッのダンス付き。マジですか?!驚きを通り越して唖然としたのは私だけではなかったよ。

 永ちゃんが好きすぎて、家で練習してるらしいと、後から聞いちゃった。永ちゃんを意識して、ブランド物の真っ白なスーツをきて会社の飲み会に来たんだ。カラオケで映えるからって、いかにもバブル時代だったなぁ。


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 独身時代は友達とカラオケに行くのが楽しくて、恋したり、振られたり、そんな当時の思いを歌に込めて発散していた、いかにも女の子同士のノリ。曲はキョンキョンの【木枯らしにふかれて】【あなたに会えてよかった】が定番。他には、プリンセスプリンセスの【M】う〜ん語り継がれる名曲!

 曲のチョイスで、その人の人となりが分かる気がしたり。例えば、聖子ちゃんの歌【赤いスイートピー】を歌ってた友達は、その後想い人と結婚して、良妻賢母で家庭を守っているよ。たまたまか?思い込みすぎなのかな?

 気分が荒れている時は、アンルイスの【六本木心中】歌ってスッキリした夜も多々あったよ。上田正樹の【悲しい色やねん】を聴きながら涙流した日もあったね。今では懐かしいいい思い出だけど。

 大袈裟に言うと歌って、生きてきた証だったりするよね。別にカラオケで歌う事だけじゃなくって、好きな歌を編集(当時はカセットテープだった)する事も含めて、当時の自分の情念をぎゅっと凝縮した感じ。年輪の一部、そんな気がする。想いを乗せやすいからね、音楽って。


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 高齢者が多い療養病棟のレクレーションのカラオケで流れるのは、圧倒的に演歌が多いね。美空ひばり、細川たかし、三波春夫…。そんな中、若年性認知症患者のAさんは【愛しのエリー】を歌うんだ。

 歌い慣れてる方で、浜田省吾の【もう一つの土曜日】も情感たっぷりに歌い上げる歌唱力の持ち主。ほんと、上手で、以前はオヤジギャグもキレッキレッだったのに、最近では口数自体少なくなっているの。

 久しぶりのカラオケ、歌い出しをちょっと戸惑っていた。レクレーションの職員の誘導でうまく入っていったけど、前はそんなことなかったのに。

 ちょっとだけ先輩のAさん、バブルに浮かれ、花金、アッシー、メッシー、カラオケ、ボーリング、ビリヤード、同じ時代の空気を感じてただろう。大切な人と出会い、恋して愛して結婚して、子どもが産まれては喜び、病気をしたら心配して、会社では家族の為、一生懸命働いてきたのだろう。

 過去を遡ると同じように生きてきたのにね。数十年後、どうしてこんなに違っちゃったのだろう。分かれた枝はもう元には戻らない。手にしていた記憶がぼポロポロこぼれ、なぜここに居るのかも分からなくなっていく不安。

 でもね、カラオケを歌い終わったら笑顔をみせるんだ。おぼろげな記憶が消えていく中でも、自然に楽しげに歌うんだ。

 【愛しのエリー】を歌うAさんの凝縮された人となりが、歌と共にゆらゆら立ち上がって見えるよ。【もうひとつの土曜日】を歌うAさんの優しさは、記憶を無くそうとも、そこに居続けるんだ、きっと、いつまでも…


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 やっぱり、歌っていいね。今まで出会った歌、これから出会う歌、感性を枯らさないように、感情を育てるように探しに行こう。嬉しい事、悲しい事、一緒に寄り添ってくれる友のひとりとして。


 あなたはどんな歌が好きですか?

 記憶の中で輝き続ける歌は何ですか?

 

 

 

 

 

 


 


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